不審ドローンを撃退するシステム~アンチドローンシステム~【教則学習・周辺知識】
2023年5月3日
2024年10月28日
ドローンジャマー(Drone jammer)アンチドローンシステム(Anti drone system)
ドローンの利用が進む中、ドローンに対するリスク管理の必要性が話題になることが増えてきています。ドローンジャマー(drone jammers)やカウンタードローン(対ドローン)・アンチドローンと呼ばれる技術で、ドローンの普及によって、注目されている技術でもあります。軍事ドローンの場合は言わずもがなですが、民生品のドローンに関しても、コントロールされるべき重要なエリア(首相官邸はもちろんですが、空港周辺や軍事施設など)への無断飛行(侵入)が懸念されています。非常時には、軍事用も民生用も区別なく利用されていることが昨今の世界情勢をみても明らかです。民生用のドローンも危険なものになる可能性があるものとして、対策は当然進んできているのですが、事案が発生したのちに、それに対する対策を導入するという、後手後手に回り、対応が追い付いていないのが現状でしょう。通常、我々が飛行させる無人航空機が、この様な機器のお世話になることは無いと思いますが、これらの技術はドローンのセキュリティに関連する技術でもありますので、このような技術があり、正しく(正規に)使用されていないものに遭遇してしまう可能性も考えてみておくことも必要ではないでしょうか。
不審ドローンの侵入を防ぐ
ドローンの侵入を防ぐためには、まず侵入して来た(して来そうな)ドローンを検知し、不審なものかをジャッジし、その後、対応が必要な場合は対応を行う。というプロセスです。「対応」というのは、例えば、対象ドローンを、「ミサイルで撃ち落とす」「レーザーで破壊する」「対抗するドローンで体当たりする」「ネットで捕獲する」など物理的、かつ攻撃的な対応から、「妨害電波を発射しコントロールできなくする(またはコントロールを奪う)」ような電子的なものまでさまざまです。
海外では、刑務所の中の受刑者へドローンを使用して、マズいものを差し入れするような事案が発生しているそうで、刑務所の周辺上空にも不審ドローン対策がなされているそうです。
海外では、刑務所の中の受刑者へドローンを使用して、マズいものを差し入れするような事案が発生しているそうで、刑務所の周辺上空にも不審ドローン対策がなされているそうです。
ドローンジャマー(Drone jammer)とは
ドローンの操作を妨げる目的でドローンの操作命令を伝える電波(簡単に言うならプロポからの電波)と同一の電波を高出力で送信することによって操作不能の状態にする機器、同時にドローンに搭載されたGNSS(GPSやGLONASS、ガリレオなど)の衛星からの電波と同一の電波を高出力で送信し、ドローンの現在位置の情報を得られなくする。などの妨害をするものもあるようです。「ジャミング[jamming]」は、詰め込む 、押し込むというような意味ですが、転じて、妨害電波を(詰め込んで、押し込んで)機能を妨害することを意味して使われるようになりました。一部では、「ドローン邪魔ー」だと思われているようですが、ドローンジャマーはドローンに対して「ジャミング」を行うことが名前の語源ですから、間違いです。が、意味の上では、まさに邪魔をしますので、間違ってません。一般的には小型の可搬型や携帯型の装置を指すことが多いようですが、アンチドローンシステムなどを指す場合もあるようです。
ドローンジャマー・アンチドローンシステムのメカニズム
基本的にはドローンの機体をコントロールするために使用されている電波に干渉してコントロールを不能にするような事を行っています。具体的には、- 機体とコントローラ間の電波と同一の周波数の電波を高出力で発信して本来のコントロール信号の電波をマスク(遮断)してしまう方法。
- 機体とコントローラ間の電波と同様の信号を用いて本来のコントロール信号と同一の信号を発生させてコントロールを奪う方法。
- 上記のような妨害を行いながら、同時にドローンに搭載されたGPS受信機に対してGPS衛星からの電波と同一の電波を高出力で送信し、ドローンの現在位置の情報を得られない状態にする。
- 同時にドローンに搭載されたカメラのビデオ送信機(VTX)から送信される電波に対して高出力の電波を送信して、電波をマスク(遮断)してしまう方法。これは、ドローンからの映像が確認できなくなるので、目隠しをされてしまったのと同様でコントロールの使用がなくなります。
ドローンに搭載されたGPS受信機に対してGPS衛星からの電波を偽装して偽のGPS位置情報を与えるて自分の位置を本来の位置と異なる位置情報に偽装して、GPS受信機を勘違いさせて、混乱させる、もしくは、コントロールを奪うような方法もありそうです。
GPS位置情報を偽装するやりかたは、ドローンだけでなく、GPS航法を利用する様々ものも同様に影響を受ける可能性のあるリスクとしてとらえられています。GPSをある意味ハッキングするような手法はスプーフィング(Spoofing)・ミーコニング(Meaconing)と呼ばれてセキュリティの問題としても、とらえられています。
GPSスプーフィングについは、いつか詳細を書きます。
GPS位置情報を偽装するやりかたは、ドローンだけでなく、GPS航法を利用する様々ものも同様に影響を受ける可能性のあるリスクとしてとらえられています。GPSをある意味ハッキングするような手法はスプーフィング(Spoofing)・ミーコニング(Meaconing)と呼ばれてセキュリティの問題としても、とらえられています。
GPSスプーフィングについは、いつか詳細を書きます。
ジャミングを受けたドローンの挙動について
軍事用のシステムの場合は問答無用で高出力ジャミングを行うことや、レーダーを用いてのドローンの検出などの技術が利用されているようです。詳細は分かりませんが、ドローンのコントロール用の電波をジャミング(同一の周波数の電波を高出力で発信)し、操作不能にする方法を、一般的な民生ドローン(DJI社製の物など)に対して行った場合、コントロール電波を失ったドローンはフェールセーフ機能が働き、設定にもよると思いますが、断絶したコントロール電波が受信できるまでその場でホバリングし、待機をします。ジャミングを受け続けると、コントロール電波を失ったままの状態が続き、次第にバッテリー残量が減少し一定の残量以下になると、離陸時に取得したホームポイント(すなわち飛ばし始めた場所)へ自動的に戻るようになります。もしくはコントロール電波を失った時点で、離陸時に取得したホームポイントへ自動的にもどります。
危険物(毒物や爆発物)を搭載している可能性も考えられることから、不審ドローンを安易に撃墜や捕獲をできない場合があるため、難しい問題でもますが、一定のエリアへ不審ドローンを近づけない効果は期待できます。目の前に飛行するドローンに銃型のドローンジャマーを用いて高出力でジャミングするだけで不審ドローンが勝手に去っていくことが期待されるため、比較的原始的なシステム(不審ドローンを電子的に偽装してコントロールを奪わない)でも十分効果的ではあります。
危険物(毒物や爆発物)を搭載している可能性も考えられることから、不審ドローンを安易に撃墜や捕獲をできない場合があるため、難しい問題でもますが、一定のエリアへ不審ドローンを近づけない効果は期待できます。目の前に飛行するドローンに銃型のドローンジャマーを用いて高出力でジャミングするだけで不審ドローンが勝手に去っていくことが期待されるため、比較的原始的なシステム(不審ドローンを電子的に偽装してコントロールを奪わない)でも十分効果的ではあります。
「リーターンホーム」の機能を期待するのであれば、飛んでいる蜂に目印をつけて蜂の巣を見つけ出す、蜂の巣ハンターの手法のようなことが、ドローンでも行えるという事になります。
これらの機器を民間で設置し使用することは、治安維持や公共の福祉などの問題がクリアできたとしても、電波法などの観点からもジャミング(妨害電波の送信)は現実的ではないと思います。妨害電波送信器は電波を送信するため無線局の免許が必要となります。現状では免許を受けることは難しいと考えられます。
これらの機器を民間で設置し使用することは、治安維持や公共の福祉などの問題がクリアできたとしても、電波法などの観点からもジャミング(妨害電波の送信)は現実的ではないと思います。妨害電波送信器は電波を送信するため無線局の免許が必要となります。現状では免許を受けることは難しいと考えられます。
また、レーダーを用いた検出も、レーダーが電波を送信する為、当然、無線局の免許が必要となります。レーダー機器の設置後も様々な法的義務や制限が発生する可能性があり、運用コスト増加につながる可能性があるため、不審ドローンの検出に民生品では、パッシブな方法が用いられています。例えば、検知レーダーを用いない光学カメラによる画像検出やドローンの飛行音を音波で検出する方法、受信機によるドローン特有のコントロール電波の検出などがあります。
また、検出した後の対応も、アナログ的な捕獲(網で採るなど)が多い傾向があります。銃火器・場不発物による破壊や電子的捕獲(コントロールを奪う)以外の方法が模索されています。
また、検出した後の対応も、アナログ的な捕獲(網で採るなど)が多い傾向があります。銃火器・場不発物による破壊や電子的捕獲(コントロールを奪う)以外の方法が模索されています。
ドローンを妨害するドローンジャマー(drone jammers)やアンチドローンシステム(anti drone systems)の機器が世界中で開発され、すでに製品として出回っています。どのような機器なのかを調べてみました。
様々なものがありますが、ドローンジャミング銃や可搬型のジャミング装置や固定型の大規模なものまでさまざまです。主に海外の物で「drone jammers」、「anti drone systems」として紹介されています。ある意味、軍事物資のようなものですので、購入しようと思う人はいらっしゃらないでしょうが、一般には簡単に購入できないと思います。このような製品があるという参考にみてください。
各社WEBサイトから紹介されている機能の謳い文句などを抜粋しています。
RF妨害装置 Dronebuster ドローンバスター®
アメリカ Flex Force社
https://flexforce.us/dronebuster/
ドローンバスターは、コンパクトで軽量で費用対効果の高いツールで、ドローンの脅威に対抗することができます。このシステムは、ミッションのニーズを満たすために複数の構成が利用可能です。ドローンバスターは、米国国防総省によって承認された唯一のハンドヘルド電子攻撃システムです。
DRONEKILLER® ドローンキラー®
アメリカ IXI EW社
https://www.ixiew.com/products/dronekiller-2/
7つの周波数帯域で動作させることができ、ドローンを最大1000メートルまで無効にすることができるます。IXIドローンキラー®は、軍と治安部隊が敵の戦闘員によるすべての民生ドローンの使用を阻止することを可能にします。コンパクトで軽量で、移動部隊、ストライキチーム、検問所、前方前哨基地、およびセキュリティ対応チームによって展開することができます。
DroneGun MKIII
アメリカ DroneShield社
https://www.droneshield.com/
片手で操作できるように設計された小型・軽量のドローン対策ソリューションです。堅牢なコンパクトピストル型のデザインで、コントロールパネルのユーザーインターフェースにより、オペレーターは電波妨害の周波数モードの選択と作動を容易に行うことができます。このデバイスは、幅広い機種のドローンに対して安全なパッシブ対策を提供します。電波妨害が発動されると、ドローンは、通常、その場に垂直制御で着陸するか、オペレーターのコントローラーまたはスタート地点に戻ります。電波妨害の作動は、リモートコントローラーに戻るライブビデオストリーミング(FPV)にも干渉し、ドローンオペレーターによるビデオ映像や情報の収集を防ぎます。
イギリス Blighter Surveillance Systems Limited
https://www.blighter.com/products/auds-anti-uav-defence-system/
対UAV防衛システム(AUDS)は、敵対的な空中監視と潜在的に悪意のある活動に従事するドローンを混乱させ、無力化するように設計されています。AUDSは、電子走査レーダーターゲット検出、電気光学(EO)追跡/分類、指向性電波阻害機能を兼ね備えています。AUDSは、小型ドローンをリモートで検出し、その活動を中断するオプションを提供する前に、それらを追跡および分類することができるスマートセンサーおよびエフェクターパッケージで、ドローンが重要なインフラストラクチャを備えたサイトに対するテロ攻撃、スパイ活動、またはその他の悪意のある活動に使用されるのを防ぐために、遠隔地または都市部での使用を想定しています。
EXCIPIO空中ネットシステム
アメリカ Theiss UAV Solutions, LLC.
http://www.theissuav.com/counter-uas
特許出願中の非電子、非破壊的なアンチドローンシステムです。当初のシステムコンセプトは、飛行中のドローンの傍受と中和に焦点を当てていたが、概念的なアプリケーションは、有人航空機、地上車両、人、動物(空中または地上)を含むように拡大していきました。現在、このシステムは、FPVカメラを搭載したドローン(回転翼機または固定翼)とネット発射銃で構成されています。脅威となるターゲットを特定すると発進し、ターゲットを迎撃するために飛行します。脅威となるターゲットに到達すると、システムオペレーターの指示により、ターゲットに網を発射します。ターゲットが「ネットに捕獲」されると、捕獲されたターゲットを捕獲した状態でネットを解放するか、ネットと捕獲されたターゲットを希望の場所に移動し、ネットを確保したままにすることができます。
アポロシールドRFガン
アメリカ ApolloShield社
https://www.apolloshield.com/
自律型ドローンを含むすべてのドローンタイプをブロックします。
バックパックなし、重量 4キロ理想的なエントリーレベルのブロックツールです。
Paladyne E1000MP
イギリス Drone Defence
https://www.dronedefence.co.uk/paladyne-e1000mp/
ドローンが検出されると、E1000MPをアクティブにして制御し、GPS、ビデオ信号をブロックすることができます。制御信号をジャミングすることにより、あらかじめ設定されたフェールセーフを始動させることができます。ドローンが開始位置に戻り、着陸するか、その場にとどまります。最大1kmの運用範囲で、ドローンを見ることができれば、それを止めることができます。エンドユーザーは、広域を保護するか、信号を問題のあるドローンに向けることができることを意味する無指向性アンテナまたは指向性アンテナのどちらかを選択することができます。オペレータは、傍受したいチャネルを制御できるため、ドローンの「リーターンホーム」機能を有効にして、オペレータがどこにいるかを調べることさえできます。Paladyne E1000MPは安全で使いやすく、経済的で、ドローンを混乱させることは、空域を保護し、他人に危険を及ぼさないように、することができます。
SkyWall Patrol
イギリス OPENWORKS Engineering Ltd
https://openworksengineering.com/skywall-patrol/
オペレーターがドローンをネットで物理的に捕獲し、電子対策と組み合わせて使用したり、電子攻撃を展開できない環境で使用したりすることを可能にします。
DroneDefender®
ドイツ Dedrone社
https://www.dedrone.com/
ドローンディフェンダーは、ドローンの脅威が検出されたときに使用されます。トリガーが作動すると瞬時に作動し、パイロットからドローンへの通信リンクを切断します。その結果、ドローンは事前にプログラムされた安全モードに入り、公共の安全へのリスクとドローンの損傷を最小限に抑えることができます。ドローンが (GPS ウェイポイントを介して) 移動を続ける場合、または ドローンがホーム モードに戻り、捕獲が必要な場合、別のトリガーでの GPS妨害を使用することができます。
カウンターUAV ソリューション
AARTOS Anti-drone Jammers
ドイツ Aaronia社
https://drone-detection-system.com/aartos-dds/product-overview/
10kmの非常に高い到達範囲を備えた幅広い対ドローン、ジャマーを提供しています。これらの妨害装置は、最大800Wの出力電力と6GHzまでのプログラム可能な周波数範囲を備え、ドローンを排除することができます。ポータブル、固定、または完全に統合された自動バージョンが利用可能です。
ハンドヘルドアンチドローンジャマー
イスラエル Skylock社
https://www.skylock1.com/modular-components/anti-drone-mitigation-systems/skybeam/
リモートパイロット航空機システム(RPAS)に対抗するためのシステムです。このシステムには、最も一般的なRPAS制御、ビデオ、GPS周波数用の無線モジュールがあり、無線モジュールは、選択した周波数範囲でのみ動作し、他の正当なサービスプロバイダに干渉しません。重量はわずか6kgで、システムは完全に移動が可能です。アンテナと機器モジュールとアンテナは、単一のフレームに取り付けられています。機器は、ボタンを1回押すだけで使用できる状態です(電源オン)。スカイビームは、警察、軍隊、公共の安全、およびその他の州委任の防衛ユニットに最適です。
R&S®ARDRONISによる効果的なドローン防衛
ドイツ(日本支社) Rohde & Schwarz社
https://www.rohde-schwarz.com/jp/products/aerospace-defense-security/counter-drone-systems_250881.html
無線操縦ドローンの検出、位置特定、妨害保護手段を講じるには、まず脅威を検出する必要がある。脅威に効果的に対処するには、早期の警告が鍵となります。1分1秒が重要なのです。R&S®ARDRONISは、商用ドローンの動作を検知すると、ドローン信号のタイプを自動的に分類し、ドローンとその操縦者の方向を判定し、ドローンと操縦者間の無線制御リンクを妨害することで、ドローンが目標に到達することを防ぎます。商用のリモート制御ドローンのほとんどは、周波数ホッピングスペクトラム拡散(FHSS)という最新の周波数アジャイル信号(アップリンク:リモート・コントローラーからの信号)により制御されています。これとは別に、無線LAN(アップリンク)信号で制御されるタイプのドローンも多くあります。ドローンから送信される信号(ダウンリンク)は、一般的にFHSS、広帯域信号、または無線LAN信号です。
対ドローンセキュリティシステム
日本 東芝インフラシステムズ株式会社
https://www.global.toshiba/jp/products-solutions/defense/drone-detection.html
短・中距離探知レーダ小型・軽量で設置性に優れ、お客様のご要望に応じて柔軟に配置が可能です。自律型捕獲用ドローンへも搭載でき、目標の追尾から捕獲に至るまでの自律運用を実現します。RFセンサドローンの電波を受信することでドローンの到来方向と高度を検知します。1台で360°全周を検知可能で、効率的に広範囲をカバーします。またRFセンサは電波を発しないため、運用に際して無線局申請や免許は不要です。自律型捕獲用ドローン地上センサ及び本体に搭載された短距離探知レーダーからの探知情報により、目標を自律的に追尾し、自動でネットを射出して目標を捕獲し、安全な場所まで運搬します。
増大しつつあるドローン脅威に対応。ドローン驚異を検知、追尾し無効化させることができます。マルチコプタを使った自律型のドローン対策ソリューションです。ドローン脅威に対し自らドローンを接触させる。侵入してきたDJIドローン等を検知、識別し追尾して接触処理します。自律型UAV技術、ディープラーニング、 搭載コンピュータ、そして見通し外に通信可能なブロードバンド通信などを使い、お客様に対ドローンソリューションを提供します。物理的に脅威ドローンに接触することで、空港や政府機関、 重要施設を保護することができます。中距離レーダーと統合できるよう設計されており、ご使用中の検知システムに迅速かつ容易に統合することができます。
日本でのカウンタードローン技術・対ドローン技術の動向
今後、重要になる不審なドローンに対処するアンチドローン技術とドローン対処機材
日本でも、ドローンをテロに使用される危険性から、様々なドローン関連の法整備がなされています。敵対するドローンを迎撃ミサイルのような一発あたり億円オーダーの高価な武器で対応するのは割に合わないため手ごろなコストで対応できるものを導入する必要が、かなり以前から議論されてきました。実際に、不審なドローンに対応する場合、どのような研究や準備が行われているのかを書いていきます。
例えば、実際に万一のドローンが悪用される事が懸念される場合、対処するのは、警察か、海上保安庁か、自衛隊という事になると思います。対ドローンの準備が進められていることがメディアでも報じられています。
【図解・社会】警視庁のドローン対策(2019年11月):時事ドットコム より
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_soc_police20191108j-03-w450
2019年11月
ドローンテロ防止に全力=40カ所で手荷物検査も―10日、即位パレード・警視庁
天皇陛下の即位を祝うパレード「祝賀御列の儀」が10日、皇居周辺で行われる。警視庁は「即位礼正殿の儀」に続き警視総監をトップとする最高警備本部を設置し、全国の警察からの応援などを含め、最大約2万6000人態勢で警備。新たな脅威となっているドローン(小型無人機)によるテロ防止に全力を挙げる。
パレード当日は、周辺に配置する多数の警察官による目視や検知器で不審なドローンを発見する。ジャミング(電波妨害)装置で運航不能にした上で、網をつり下げた大型ドローンや地上から網を飛ばす「ネットランチャー」で捕獲することなどを想定している。
また、警察庁が出している警察白書でも以下のように触れられています。アメリカの空中ネットシステムや東芝のシステムに動作イメージがよく似ているので同一の物かそれに類似するものだと思います。
平成28年版 警察白書 コラム 警視庁における「無人航空機対処部隊」の編成 よりhttps://www.npa.go.jp/hakusyo/h28/honbun/html/sf121000.html
警視庁は、平成27年(2015年)12月、小型無人機を捕獲するためのネットを装着したいわゆる迎撃ドローンを運用する「無人航空機対処部隊」を編成した。重要施設等の警戒警備において、違法に飛行する小型無人機を発見した際には、迎撃ドローンによりこれを捕獲し、周囲の安全が確保できる場所まで運搬することとしている。
不審ドローンへの対応
このように日本でも2016年頃からアンチドローンシステムがすでに導入、運用されていることがわかります。ネットで不審ドローンを捕獲するという原始的にも思える方法ではありますが、電磁波によってコントロールを邪魔したり、銃火器で撃ち落としたりするよりも、日本国内で運用するのには法的、技術的に導入しやすいシステムだったと思われます。日本におけるドローン対処技術の導入
ドローン対処技術の技術開発は、自衛隊でも進めているようですが、ドローンの対処には、複数の技術が必要で、不審ドローンの検出や認知の技術と、飛行しているドローンを強制的に排除する技術の両方が有効に機能しなければなりません。これまで説明してきたものと重複してしまうかもしれませんが改めてまとめます。
世界では現在、採用されている物、研究中の物を含めて以下のようなものがあります。
ドローンの検出・認知
2019年に公開されていた物の中には、「ドローン対処器材」の性能確認試験に関する役務 として技術検討するためと思われる複数のドローンジャマーが調達されています。
三菱電機技報2019年02月号 論文10 (mitsubishielectric.co.jp)
https://www.giho.mitsubishielectric.co.jp/giho/pdf/2019/1902110.pdf
不審なドローンを迅速に発見するドローン検知システムを提供開始 (hitachi.co.jp)
https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2017/10/1006.pdf
防衛装備庁(自衛隊)での研究の一部も公開されています。公開されている研究発表の中で不審ドローン対処技術に関連のありそうな技術をまとめました。
これらの研究は、世界情勢もあり、注目されている分野なので新聞でも報じられました。
これから、技術の進展によって、対処方法は、高出力の高周波電磁波や、高出力レーザー、ひょっとしたらレールガンなどで撃ち落とすようになって行くのかもしれないですし、新しい技術が登場するのかもしれません。
GPSジャミングが影響しているエリアについて詳しくは以下にまとめています。
GPSジャミングマップ(GPS jamming map) 現在のジャミングを地図上に表示
世界では現在、採用されている物、研究中の物を含めて以下のようなものがあります。
ドローンの検出・認知
- レーダーを使用して飛行するドローンを検出する。
- カメラを使用して画像認識で飛行するドローンを検出する。
- ドローンの飛行音で飛行するドローンを検出する。
- ドローンをコントロールしている電波を受信し飛行するドローンを検出する。など
- ネットを空中に放出し不審ドローン捕獲、強制的に落下させる。
- 迎撃ドローンで飛行する不審ドローンへ体当たりして墜落させる。
- 銃火器・爆発物等で、不審ドローンを破壊する。
- 強力な電磁波(電波)によって飛行する不審ドローンの動作を強制的に停止(故障)させる。
- 強力なレーザーによって飛行する不審ドローンを破壊する。
- 不審ドローンをコントロールしているリモートコントロール電波に干渉しコントロール不能にする。
- 不審ドローンをコントロールしているリモートコントロール電波に割り込んでコントロールを奪う。(ハッキング)
2019年に公開されていた物の中には、「ドローン対処器材」の性能確認試験に関する役務 として技術検討するためと思われる複数のドローンジャマーが調達されています。
品目 ドローン対処器材の技術援助(その1)
契約日 2019/09/17
契約相手方 アイ・アール・システム
D-FEND「カウンタードローンシステム」
品目 ドローン対処器材の技術援助(その2)
契約日 2019/09/17
契約相手方 シマヅプレシジョン インスツルメンツ インク
SkySafe「モバイル型ドローン対策システム」
品目 ドローン対処器材の技術援助(その3)
契約日 2019/09/17
契約相手方 兼松エアロスペース(株)
ローデ・シュワルツ「ドローン探索,監視,対策システム」
品目 ドローン対処器材の技術援助(その4)
契約日 2019/09/17
契約相手方 三菱電機株式会社 防衛システム事業部
三菱電機「電波探知妨害装置」
品目 ドローン対処器材の技術援助(その5)
契約日 2019/09/17
契約相手方 日本海洋(株)
FlexForce「ドローンバスター」
品目 ドローン対処器材の技術援助(その6)
契約日 2019/09/17
契約相手方 東芝インフラシステムズ(株)電波システム事業部
東芝エレクトロニツクシステムズ(現 東芝電波テクノロジー)「ドローン検知システム」
品目 ドローン対処器材の技術援助(その7)
契約日 2019/09/17
契約相手方 日立製作所 ディフェンスビジネスユニット営業本部
日立製作所「対処ドローンシステム」
このように公開されている入札情報から推察すると自衛隊や警察はもとより国土交通省航空局(空港)や海上保安庁でも導入されていることがわかります。基地などの施設へ固定設置されている物から巡視船のように船舶への搭載も進められている様子や、当初は、不審ドローンを捕獲するようなシステムだったものが、ドローンのコントロールを妨害(ジャミング)をするものに変化している事もわかります。
競争入札に係る情報の公表(物品・役務等)
令和元年(2019年)9月(製造・物品・役務)より
このように公開されている入札情報から推察すると自衛隊や警察はもとより国土交通省航空局(空港)や海上保安庁でも導入されていることがわかります。基地などの施設へ固定設置されている物から巡視船のように船舶への搭載も進められている様子や、当初は、不審ドローンを捕獲するようなシステムだったものが、ドローンのコントロールを妨害(ジャミング)をするものに変化している事もわかります。
官公庁の入札情報より ドローン対処機材を抜粋
2015/11 | 小型無人機対処検証に伴う無人機使用による遠隔式拘束網小型無人機捕獲機材に関する役務 | 防衛省 陸上自衛隊 中央会計隊 | 日本工機(株) | |
2015/11 | 小型無人機対処検証に伴う音響装置探知機材に関する役務 | 防衛省 陸上自衛隊 中央会計隊 | 沖電気工業(株) | |
2015/11 | 小型無人機対処検証に伴う無人機使用による遠隔式拘束網小型無人機捕獲機材に関する役務 | 防衛省 陸上自衛隊 中央会計隊 | 日本工機(株) | |
2015/11 | 小型無人機対処検証に伴う無人機使用による遠隔式拘束網小型無人機捕獲機材に関する役務 | 防衛省 陸上自衛隊 中央会計隊 | 日本工機(株) | |
2015/11 | 小型無人機対処検証に伴う音響装置探知機材に関する役務 | 防衛省 陸上自衛隊 中央会計隊 | 沖電気工業(株) | |
2015/11 | 小型無人機対処検証に伴う電波発射源探知・映像化機材に関する役務 | 防衛省 陸上自衛隊 中央会計隊 | (株)東芝 | |
2015/11 | 小型無人機対処検証に伴う小型無人機探知、妨害機材AUDS)に関する役務 | 防衛省 陸上自衛隊 中央会計隊 | コーンズテクノロジー(株) | |
2017/11 | 小型無人検知レ-ダ-システム | 内閣府 警察庁 警察大学校 | 加賀ソルネット(株) | |
2018/07 | 小型無人機電波検知システム | 内閣府 警察庁 警察大学校 | キーサイトテクノロジー(株) | |
2019/02 | 空港におけるドローン探知機器の設置及び実証 | 国土交通省 航空局 | (株)日立製作所 | |
2019/09 | ドローン対処器材の技術援助(その1) | 陸上自衛隊 中央会計隊 | アイ・アール・システム | D-FEND「カウンタードローンシステム」 |
2019/09 | ドローン対処器材の技術援助(その2) | 陸上自衛隊 中央会計隊 | シマヅプレシジョン インスツルメンツ インク | SkySafe「モバイル型ドローン対策システム」 |
2019/09 | ドローン対処器材の技術援助(その3) | 陸上自衛隊 中央会計隊 | 兼松エアロスペース(株) | ローデ・シュワルツ「ドローン探索,監視,対策システム」 |
2019/09 | ドローン対処器材の技術援助(その4) | 陸上自衛隊 中央会計隊 | 三菱電機(株) 防衛システム事業部 | 三菱電機「電波探知妨害装置」 |
2019/09 | ドローン対処器材の技術援助(その5) | 陸上自衛隊 中央会計隊 | 日本海洋(株) | FlexForce「ドローンバスター」 |
2019/09 | ドローン対処器材の技術援助(その6) | 陸上自衛隊 中央会計隊 | 東芝インフラシステムズ(株)電波システム事業部 | 東芝電波テクノロジー「ドローン検知システム」 |
2019/09 | ドローン対処器材の技術援助(その7) | 陸上自衛隊 中央会計隊 | 日立製作所 ディフェンスビジネスユニット営業本部 | 日立製作所「対処ドローンシステム」 |
2020/01 | 無人航空機検知システムの製造(製造・設置・調整) | 国土交通省 航空局 | (株)日立製作所 | |
2020/03 | 無人航空機飛行妨害無線装置2式の購入 | 国土交通省 航空局 | 日本海洋(株) | |
2020/07 | 電波発信位置検出装置の整備に関する要件調査 | 国土交通省 航空局 | 一般財団法人航空保安無線システム協会 | |
2021/01 | 小型無人機対処器材の整備1式 | 防衛省 陸上自衛隊 西部方面隊健軍駐屯地 | (有)全日工業 | |
2021/04 | 小型無人機探知資機材のレンタル契約 | 兵庫県 兵庫県警察本部 | (株)セキド | |
2021/04 | 無人航空機検知システムの製造(製造・設置・調整) | 国土交通省 航空局 | シマヅ プレシジョン インスツルメンツインク | SkySafe Inc 社、ドローン検知システム |
2021/05 | 電波探知妨害装置によるドローンの探知・無効化に関する技術援助 | 防衛省 陸上自衛隊 富士学校 | 三菱電機(株) | |
2021/08 | 小型無人機対策資機材(通信機能抑止装置)買入 | 国土交通省 海上保安庁 | ||
2021/09 | 空港におけるドローン探知機器の設置及び実証 | 国土交通省 航空局 | (株)日立製作所 | |
2021/10 | 小型無人機対処器材 | 防衛省 防衛装備庁 | ||
2022/02 | 庁1331 小型無人機対策資機材の実証試験業務 | 国土交通省 海上保安庁 | ||
2022/03 | 巡視船 UHF・SHF 帯特殊送受信装置9式ほか 2 点買入 | 国土交通省 海上保安庁 | ||
2022/06 | 無人航空機対処に係る調査研究一式 | 防衛省 | 三菱重工業(株) |
ドローン対処技術の研究
国内の研究機関やメーカーでも、様々な研究がされています。それらの、一部、研究成果やシステムの概要などが公開されています。三菱電機技報2019年02月号 論文10 (mitsubishielectric.co.jp)
https://www.giho.mitsubishielectric.co.jp/giho/pdf/2019/1902110.pdf
不審なドローンを迅速に発見するドローン検知システムを提供開始 (hitachi.co.jp)
https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2017/10/1006.pdf
防衛装備庁(自衛隊)での研究の一部も公開されています。公開されている研究発表の中で不審ドローン対処技術に関連のありそうな技術をまとめました。
防衛装備庁技術シンポジウム2019 で発表された内容で、高出力のマイクロ波を浴びた時のドーローンの挙動などのデータが出されており大変興味深いです。
ドローン・UAS対処にも適用可能な高出力マイクロ波技術の研究
防衛装備庁 電子装備研究所https://www.mod.go.jp/atla/research/ats2019/doc/nishioka.pdf
防衛装備庁技術シンポジウム2020で発表された内容では、不審ドローンに対処する場合、今後、必要になる可能性がある「高出力マイクロ波」や「高出力レーザ技術」の研究発表もありました。
ドローン・UAS対処にも適用可能な高出力マイクロ波技術の研究
防衛装備庁 電子装備研究所https://www.mod.go.jp/atla/research/ats2019/doc/nishioka.pdf
防衛装備庁技術シンポジウム2020で発表された内容では、不審ドローンに対処する場合、今後、必要になる可能性がある「高出力マイクロ波」や「高出力レーザ技術」の研究発表もありました。
高出力マイクロ波技術の研究
これらの研究は、世界情勢もあり、注目されている分野なので新聞でも報じられました。
防衛省、「高出力マイクロ波」兵器を開発へ…軍用ドローンを無力化 : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20220205-OYT1T50129/
2022/02/05
防衛省は来年度から、敵の軍用無人機(ドローン)を無力化できる「高出力マイクロ波」(HPM)兵器の研究開発に本格的に乗り出す。現代戦で戦局を左右する電磁波領域に対応した装備や技術を導入し、防衛力を高める狙いがある。マイクロ波は電子レンジで食品を加熱する時などに使われる電波だ。これを応用して強力なマイクロ波をビーム状に照射することで、ドローン内部の電子制御システムなどを故障させる。
将来のアンチドローン技術
当初は、不審ドローンをネットで捕獲したり、対処用ドローンで体当たりさせたりといった物理的対応のシステムが徐々にジャミングで阻止する様な電子的対応のものへと変化しています。これは、不審ドローン問題が深刻化したおかげで、より高度で強力な阻止技術を必要としたことによるところが多いと思われます。ドローンをコントロールする電波の周波数帯でのジャミング(妨害電波の送信)は、他の通信などに影響を及ぼす可能性もあることから本来、認められるべきものではないと思います。しかし、他に効率的で有効な方法がないのであればやむを得ないという事情があるのではなかろうか。将来、完全に自立した自動操縦のドローンが出てきた場合、これらにはコントロールする電波がない可能性もあります。こらは、コントロール電波をジャミングする手法は使えない事を意味します。これから、技術の進展によって、対処方法は、高出力の高周波電磁波や、高出力レーザー、ひょっとしたらレールガンなどで撃ち落とすようになって行くのかもしれないですし、新しい技術が登場するのかもしれません。
GPSの脆弱性を利用してドローンをハイジャックする手法は以下に書きました。
アンチドローンシステムの高度な手法 GPSジャミング(Jamming )、スプーフィング(Spoofing)・ミーコニング(Meaconing)GPSジャミングが影響しているエリアについて詳しくは以下にまとめています。
GPSジャミングマップ(GPS jamming map) 現在のジャミングを地図上に表示
戦時の対ドローン防衛とゲパルト自走対空砲の現代的価値
戦時における敵対ドローンへの対処は破壊が基本となりますが、対空ミサイルによる迎撃はコストパフォーマンスが非常に悪いため、より安価な対処方法が求められています。この文脈で、かつては時代遅れとされていた対空自走砲が現代戦において新たな脚光を浴びています。
特に注目されているのが、1973年にドイツに配備が開始されたゲパルト自走対空砲です。当初は機甲部隊を低空飛行の航空機から守る近接防空用として開発されましたが、攻撃ヘリに搭載されるような空対地ミサイル射程の伸長により、その本来の役割は時代遅れとなり、2010年にはドイツでも退役していました。
しかし、ウクライナ戦争で状況は一変します。ウクライナ軍は2022年4月からの継続的な支援でゲパルトの供与を受け、対ドローン防衛に活用することを計画していました。実際、対ドローン戦での有効性は以前から注目されており、カタールのワールドカップでもテロ対策として採用された実績がありました。
ゲパルトの独特なレーダーシステムとその現代的価値
ゲパルトは、砲塔上部後方に捜索用の回転式レーダーと、前面に追尾用の固定式レーダーを装備しています。このシステムの特徴的な点は、一般的なXバンドではなく、KuバンドとSバンドという二つの異なる周波数帯を採用していることです。
これらの周波数帯はそれぞれに異なる特性を持っています。Kuバンドは長距離伝送に適し、高精度で速度差の検知に優れていますが、雨天時の性能低下や高い消費電力という欠点があります。一方、Sバンドは気象条件に左右されにくく、安定性に優れています。一般的に使用されるXバンドは、これらの中間的な特性を持ち、多用途性の高さが特徴です。
KuバンドとSバンドの2つの周波数帯を組み合わせて使用するレーダーシステムは、独特なもので、当時はおそらく技術的制約から採用されたこの二重レーダーシステムですが、現代の戦場で予想外の効果を発揮することとなりました。現代の対ドローンし、通常のXバンドレーダーでは捉えにくい小型のドローンを、効果的に探知できるという利点が明らかになりました。
レーダーバンドについて下記に詳しく説明しています。
この二重レーダーシステムは、現代の戦場で予想外の効果を発揮しました。特にイラン製「シャヘド」やロシア製「ゲラン2」「ランセット」などの自爆ドローンに対して顕著な成果を上げています。これらのドローンは一般的なXバンドレーダーに対して高いステルス性を有していましたが、ゲパルトのKuバンド・Sバンド方式のレーダーに対しては、そのステルス性が大幅に低下し、通常の10倍以上の大きさで探知されることとなりました。
この成功は、低空・低速で進入する自爆ドローンの特性が、ゲパルトの元々の設計思想と合致していたことに起因します。また、偵察用ドローンと比較して機体が大きく、機関砲による命中率が高かったことも重要な要因でした。
さらに、ゲパルトの優れたコストパフォーマンスも重要な利点です。向かってくる航空機やミサイルを迎撃するミサイルのパトリオット地対空ミサイルが1発あたり3~4億円という高額な兵器であるのに対し、ゲパルトの35mm機関砲弾は1発数万円程度です。対象となるドローンも同程度の価格帯であることを考えると、極めて効率的な防衛手段といえます。
このように、半世紀前の技術が現代の戦場で新たな価値を見出した例として、ゲパルトは軍事史上特筆すべき存在となっています。開発当時は技術的制約から生まれた特徴が、半世紀後の戦場で予期せぬ形で重要な優位性をもたらした点は、軍事技術においても、必ずしも最新鋭が最適解とは限らないというのが、非常に興味深い話です。
Hans-Hermann Bühling, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons
皮肉なことに、天敵とされてきた攻撃ヘリコプターも、歩兵が携行できる対空ミサイルの発展により撃墜される危険が上昇したことや無人航空機(ドローン)の高性能化などにより、廃止したり、無人攻撃機に代替する動きが出てきています。攻撃ヘリコプターも、また時代遅れの兵器とされ始めています。
Nikolai Bulykin, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
陸上自衛隊 87式自走高射機関砲
JGSDF, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
ゲパルト自走対空砲 開発の背景
1960年代、航空戦力は大きな転換期を迎えていました。戦闘機のみならず、それまで比較的低速であった攻撃機や爆撃機までもがジェット化され、従来型の対空防御システムでは対応が困難になっていました。この新たな脅威に対応するため、ドイツは新たな対空防御システム開発計画を立案しました。大口径機関砲、電動砲塔、そしてレーダーを組み合わせた新型対空車両のゲパルト自走対空砲は1963年に開発が始まり、1976年、ソ連の強大な機甲師団との対決に備えて実戦配備が開始されました。
レオパルト1戦車の車体を基盤とし、二門の35mm機関砲と独特な二種類のレーダーを組み合わせた設計が特徴です。最大射程4km(実効射程2-2.5km)で、1分間1100発という高い発射速度を誇り、対空用弾薬640発と対装甲用弾薬40発を搭載可能な対空自走砲です。
しかし、想定された戦闘は一度も起こることはありませんでした。1989年のベルリンの壁崩壊、そして続くソ連邦の解体により、当初想定されていた脅威は消滅してしまいました。
冷戦後、世界の安全保障の状況は対テロ戦争へとシフトしていきました。高性能な航空戦力を持たないテロ組織に対して、高度な対空防衛能力を持つゲパルトは過剰な性能を持つ装備となってしまいました。さらに、対空ミサイルシステムへの代替や、攻撃ヘリコプターの対戦車ミサイルの射程拡大などの、状況変化に伴い戦車同様、ミサイルの的にされてしまう危険性も高まり、自身を守るためにミサイルを装備する必要性などを考えると、その存在意義は一層低下していきました。特定の状況下では依然として有用性を認められていたものの、多くの部隊で段階的な廃止が検討されるようになって行きました。
皮肉なことに、天敵とされてきた攻撃ヘリコプターも、歩兵が携行できる対空ミサイルの発展により撃墜される危険が上昇したことや無人航空機(ドローン)の高性能化などにより、廃止したり、無人攻撃機に代替する動きが出てきています。攻撃ヘリコプターも、また時代遅れの兵器とされ始めています。
2022年、ウクライナ戦争において、ゲパルトは初めての実戦投入を経験します。ロシア軍が使用する巡航ミサイルやイラン製ドローンに対して、驚くべき成果を上げました。特筆すべきは、カタログ値の以上の探知距離を実証し、一度の戦闘で10機ものドローンを撃墜するという実績を残したことです。
ロシア軍が運用するイラン製自爆ドローンは、一般的なXバンドレーダーに対して高いステルス性を有していました。小型なおおきさと相まって、通常のレーダーでは高性能ステルス機並みの低視認性を示していたのです。しかし、ゲパルトのKuバンド・Sバンド方式のレーダーに対しては、そのステルス性が大幅に低下し、通常の探知されることが難しかったものまで探知することができました。
元来ジェット戦闘機への対応を想定して開発されたゲパルトのシステムにとって、低速で飛行するドローンの迎撃自体は比較的容易とされ、さらに、対空ミサイルと比較して安価な機関砲弾を大量に装備できることから、継続的な対ドローン戦闘においても高い実効性を示すことができたのです。
短い射程距離や高い被発見性など、従来から指摘されている欠点は存在していますが、現代のドローン戦において、その欠点を補って余りある利点が明らかになりました。安価な弾薬コスト、高い機動性、そして効果的なレーダーシステムという特徴が、現代の戦場で思わぬ形で活きているのです。
このように、ゲパルトは時代の大きな転換点に開発された装備であり、その主たる任務を一度も実行することなく、時代の変化とともにその役割を見直さざるを得なくなった特異な存在でした。しかし開発から46年を経た今日、その技術的特徴である安価な弾薬コスト、高い機動性、効果的なレーダーシステムが、現代のドローン戦において予想外の強みとなっています。このように時代の変化とともに新たな価値を見出し、異なる形で重要な役割を果たしているゲパルトの事例は、非常に珍しいケースといえます。
各国で作られた対空自走砲
Vitaly V. Kuzmin, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons1964年にZSU-23-4「シルカ」(Shilka:アムール川の支流の河川名)対空自走砲として、ソ連軍に制式採用され、翌年、65年から生産と部隊配備が開始され始めました。
内部は前後に仕切られ前部に4連装の23mm対空機関砲と給弾システム、後部に乗員スペース(車長と砲手2名)とレーダー関係機材が収められています。
主武装の23mm4連装対空機関砲AZP-23は、87.3口径23mm液冷対空機関砲2A7を4門束ねたもので、発射速度は1門当たり、1分間800~1,000発の発射速度で、4門合わせて1分間4,000発の発射速度ですが通常は1~2門しか用いず、3~5発、5~10発、50発以下のバースト射撃が行われます。23mm対空機関砲の最大射程は7,000m、最大射高は5,100mとされていますが、実用上の射程は2,000~3,000m程度だそうです。
Nikolai Bulykin, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
2K22「ツングースカ」(Tunguska:中央シベリアを流れる河川名)自走対空システムは、ZSU-23-4「シルカ」の後継車両としてトゥーラのKBP器械製造設計局が1960年代末に開発に着手したもので、1989年に東ドイツ駐留ソ連軍に配備されているのを西側が初めて確認したため、西側では本車を当初「M1989」の識別番号で呼んでおり、後にSA-19「グライソン」(Grison:中南米産のイタチ)とNATOコードネームが付けられています。
大型の装軌式車体2S6に80.5口径30mm連装対空機関砲2A38Mを2連装した上、低~中高度用半自動誘導式対空ミサイル9M311を合計8発搭載したレーダー・レーザー照準機構付きの全周旋回式砲塔を持つ、西側には例の無いハイブリッド対空システムで、それまで各種装甲車両に搭載された中高度用自走対空ミサイルと自走対空機関砲を統合したような車両です。
1986年から部隊配備が開始されています。
陸上自衛隊 87式自走高射機関砲
JGSDF, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
日本にも、導入されているものがあります。
87式自走高射機関砲は、名称の通り、1987年に制式化された局地防空用の自走型近距離対空火器で、戦車部隊に随伴し、敵の対戦車ヘリや対地攻撃機を追い払うのが主な目的とされています。1987年度から調達が開始されましたが、1両約14億円という高価格であり、調達数は毎年1~2両程度に留まり、調達が終了した2002年度までにわずか52両しか生産されませんでした。
35mm 二連装高射機関砲(L90)を装甲・自走化したもので、74式戦車の車体に砲システムを搭載しています。捜索レーダ、追随レーダ射撃統制装置が一体となって、デジタル・コンピューターと連動し、目標の発見・捕捉・発射までの過程がリアルタイムで計算され、動揺修正も自動的に行われます。