アンチドローンシステムの高度な手法 GPS(GNSS)ジャミング、スプーフィング・ミーコニング
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GPSの脆弱性を利用してドローンをハイジャックする手法
GPSジャミング(Jamming )、スプーフィング(Spoofing)・ミーコニング(Meaconing)と呼ばれるもので、ドローンを直接コントロールする電波に介入するものではないことが、ポイントです。すなわち、飛行コースをプログラミングされて、自動的に飛行しているドローン(ドローンがリアルタイムに電波でコントロールされていない場合の意味です)に対しても有効になる可能性があるということです。逆に、機体の位置情報を全地球航法衛星システム(GNSS)の情報に依存していない場合は効果がないとも言えます。
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そもそも全地球測位システム(GPS)とは
この衛星システムは全地球測位システム(GPS)は歴史が長く、現代の悪用を防ぐことが難しい問題のある技術と言われています。全地球航法衛星システム(GNSS)は、自律的な地理空間測位を提供する衛星ナビゲーション・システムの総称で、GPS、GLONASS、ガリレオ、北斗などの地域的なシステムが含まれます。また、GNSSに関連する概念として、PNT(Position, Navigation, and Timing)システムが存在します。ジャミング、スプーフィング・ミーコニング、およびその他のGPS障害モード
GPSの脆弱性は、衛星そのものよりも衛星からの信号に影響を受けやすいことも指摘されています。脆弱性はいくつかの要因によって引き起こされます。まず、電波干渉や太陽活動による電離層干渉などの意図しない干渉があります。さらに、ジャミングや偽造信号によるシステムのなりすまし、衛星への電磁パルス(EMP)攻撃などの意図的な干渉も存在します。太陽活動による電離層干渉や敵のEMP攻撃に対しては、現在のところ十分な防御手段がありません。過去の1859年のキャリントン・イベントと呼ばれる歴史に残る大規模な太陽風に類似する太陽嵐が発生すれば、GPS衛星ネットワーク全体が危険にさらされる可能性があります。人為的な脆弱性を3点以下に挙げてみます。
ジャミング(Jamming)
ジャミングは、GPS受信機の正確な位置情報やタイミングを妨害するために行われる電波干渉の一形態です。外部から発信される不正な電波(妨害電波)がGPS信号と干渉し、受信機が正確な信号を受け取ることを困難にします。ジャミング電波を受けると、GPS受信機が衛星からの正しい信号を正しく受信できなくなり、位置精度が低下したり、タイミング情報がずれたりする結果をもたらします。妨害電波を出すジャミング装置(妨害装置)は、海外では200ドル以下の価格で手に入り、簡単に手軽な装置で行うことができるため、航空機や船舶などのナビゲーションシステムに影響を与え、事故や誤誘導のリスクを高める可能性がありますが、容易に利用されているようです。妨害装置は多くの国で違法とされています(米国はもちろんですが日本でも違法です)、中国を含む一部の地域で大量に製造され、入手が比較的容易ですが、日本国内でもジャミング機器を安易に使用してしまうと電波法などに触れるだけでなくテロリストになってしまう危険もありますので注意が必要です。米軍は機器のテストや軍事演習の際にGPS妨害を実施しており、米国政府も衛星信号の妨害に関するテストや演習を行っているそうです。また、昨今のウクライナ・ロシアでの無人機戦に伴いアンチドローンのシステムでGPSジャミングが行われており、モスクワ周辺では度々、カーナビが使用不能(GPSジャミングの為?)になってタクシーが困っているとかいないとか。ニュースで話題になっているようです。
スプーフィング(Spoofing)
スプーフィングは、日本語では「なりすまし」と訳されます。偽のGPS信号を発信し、受信機を欺く技術です。攻撃者は、正確なGPS信号を模倣して、受信機に誤った情報を提供することで、受信機が誤った位置やタイミングを報告するように仕向けます。スプーフィングによって、船舶や航空機などのナビゲーションシステムは誤った情報に基づいて操作され、誤った方向や目的地に案内される可能性があります。スプーフィング攻撃は、高度な知識と技術を必要としますが、成功すれば被害をもたらす可能性があります。また、スプーフィングは船舶のような長距離の移動にも影響を及ぼすため、特に脅威とされています。GPS信号の偽装は、ジャミングよりも頻度は低いかもしれませんが、より深刻な問題を引き起こします。ジャミングでは正常なGPS信号を遮断してしまう為、デバイスが停止し、ユーザーは異常を認識できます。しかしスプーフィングによる偽装された信号では、デバイスが正常に動作しているように見え、ユーザーは偽装に気付かないことがあります。スプーフィングはジャミングよりも複雑であり、ユーザーは複雑なC/Aコードを再生成する必要があります。C/Aコードのレートは1秒あたり102.3万ビットで、各GPS衛星は独自の1023ビットのC/Aコードを送信し、ミリ秒ごとに繰り返す必要があります。
ミーコニング(Meaconing)
これらの脆弱性は、GPSシステムが広く使用されているため、特に重要です。これらの攻撃を防ぐためには、高度な暗号化、認証、電波監視、信号の完全性チェックなどの対策が必要です。また、GNSS(全地球航法衛星システム)のアップデートやバックアップナビゲーションシステムの導入など、複数の手段を組み合わせてセキュリティを向上させることが重要です。
GPSのスプーフィングやミーコニングの手法を用いた実際の事例はいくつか存在します。以下にそのうちのいくつかを紹介します。
スプーフィング・ミーコニングの事例:
イランによる米国無人機の捕獲(2011年)
2011年に米軍の無人偵察機がイラン上空で消息を絶ち、1週間後に無傷でイラン人の手に渡ったという事件があました。イランは、米国の無人偵察機RQ-170 Sentinelをスプーフィング攻撃を使用して捕獲したと主張しました。イランは、偽のGPS信号を送信し、無人機を自国の領域に着陸させることに成功したと述べています。米国政府はこれを認めていませんが、この事例はスプーフィングの脅威を示すものとして注目されました。イランのGPSスプーフィングが話題になった翌年、アメリカの大学でGPSスプーフィングに関する興味深い実験が行われました。
テキサス大学オースティン校の研究チームがUAVの "なりすまし "に初めて成功(2012年6月27日)
テキサス大学オースティン校の研究チームは、無人航空機(UAV)の受信するGPS信号を外部から操作することができることを初めて実証しました。この発見は、2015年までに数千機の民間ドローンを米国の領空で運用する新しい連邦指令の実施に大きな影響を与える可能性があります。この実験は、大学が所有する民間用ドローンを使用して行われました。
工学部のトッド・ハンフリーズ助教授と学生たちは、米国国土安全保障省に招かれ、ニューメキシコ州ホワイトサンズでの実証実験を試みました。研究チームは、小型ドローンと、助教授と学生たちが開発したハードウェアおよびソフトウェアを使用し、GPS誘導機に送信される航法信号を何度も操作しました。この技術は「スプーフィング」と呼ばれ、偽のGPS信号を発信し、UAVのGPS受信機を欺くことで、新たな航空路を飛行するもので、スプーフィングによってGPS受信機の位置と時刻の両方を操作できるため、GPSに依存する多くの機器やインフラが攻撃に対して脆弱になる恐れがあります。
この研究チームによるデモンストレーションは、GPSスプーフィングによる無人機の操作が技術的に可能であることを初めて示した例となりました。国防総省航空政策アナリストのミルトン・R・クラリー氏は、「このデモンストレーションは、重要なインフラがスプーフィング攻撃からどれだけ脆弱であるかを示す一つの警鐘だ」と述べています。
ハンフリーズ助教授は、彼の研究チームは、2015年までに政府および商業用ドローンが米国空域で使用できるようにするための連邦航空局の規制の作成に関与しており、スプーフィングに関連する潜在的なリスクを早い段階で示すことが目的だったと説明しています。
ソース:Cockrell School Researchers Demonstrate First Successful "Spoofing" of UAVs
翌年、ヨットへのGPSスプーフィングの実験が行われています。
米テキサス大学の研究チームが、豪華ヨットのGPSシステムを乗っ取って、ヨットの針路を変えさせることに成功したと発表。(2013年7月29日)
テキサス大学オースティン校の無線航法研究チームは、開発したGPSスプーフィング装置を用いて全長65メートルの豪華ヨットの航路を変更できるかどうかを調査し、この試みに成功しました。
航空工学・機械工学部のトッド・ハンフリーズ助教授率いるチームは、世界で初めて公に認められたGPSスプーフィング装置を用いて、個人所有ヨットのスプーフィング(偽信号を送ることによる航路の変更)に成功しました。スプーフィングは、偽のGPS信号を発信し、船のGPS受信機を操作する技術です。この実験の目的は、海上でスプーフィング攻撃を実行する難易度を評価し、船の操縦室のセンサーが脅威を特定できるかを調査することでした。
研究者たちは、この実験が航行攻撃の危険性を浮き彫りにし、GPSスプーフィングが船舶や他の輸送手段にとって深刻な脅威であることの証拠となることを期待し行われました。前年、ハンフリーズ助教授と学生グループは、GPS誘導の無人航空機(UAV)ドローンの初の公開捕獲を達成しました。
チームは6月に、モナコからギリシャのロードス島まで、地中海を航海している「White Rose」というヨットに招待されました。実験はイタリア沿岸から約30マイル離れた国際水域で実施され、大学院生の2人で、ヨットの上甲板から箱型の偽装装置を用いて、船の2つのGPSアンテナに対して微弱なGPS信号の偽信号を送信しました。この偽造信号は徐々に本物のGPS信号を圧倒し、最終的には船のナビゲーションシステムを制御することができました。
スプーフィングではGPS信号の遮断や妨害(ジャミング)とは異なり、船のナビゲーション機器に警報が発生しません。そのため、船のGPS機器からすると、偽の信号と本物の信号の区別がつかず、なりすまし攻撃が行われたのに気づく事が困難でした。操作を繰り返すことで、船は元の航路から数百メートルずれた平行な航路に誘導され、なりすましに成功しました。
この実験は、スプーフィング装置の性能と輸送業界の技術で検知できる性能との間に大きな差異があることを示すものであり、輸送業界の安全確保に対する投資の重要性を強調しています。ハンフリーズ助教授は、「この実験は、航空機などの他の半自律型車両にも適用されます。航空機は部分的に自動操縦システムに依存しており、この脅威にどのように対処するかについて検討する必要がある」と語っています。
ソース:UT Austin Researchers Spoof Superyacht at Sea
騙されることこそがスプーフィングの恐ろしさ
気づかないうちに危険区域侵犯の恐れも
参考:
GPS Spoofing Update: Map, Scenarios And Guidance
8 November, 2023 GPS スプーフィングの更新: マップ、シナリオ、およびガイダンス
Someone In the Middle East is Leading Aircraft Astray by Spoofing GPS Signals
Sep 28, 2023 フォーブス 中東の誰かがGPS信号を偽装して航空機を迷わせている
これらの問題を受けて欧州連合航空安全局 (EASA) では安全情報速報 (SIB)で、これらの問題への対処の推奨事項を公開しています。大まかに以下のようなものです。
推奨事項
- ATM/ANS プロバイダーおよび空域利⽤者と連携して緊急時対応⼿順が確⽴され、特に重要な従来の航法インフラストラクチャーが確実に整備されるようにする。
計器着陸システムは保持され、完全に動作します。 - 適切かつ積極的な緩和措置を最優先事項として実施する。NOTAM の発⾏を含む。
たとえば、影響を受ける地域および関連する制限(必要に応じて州レベルで決定される)を説明する。 - 関連する国家電気通信当局と連携して、ATM/ANS サービスプロバイダーによる GNSS 劣化に関する情報収集プロセスの確⽴を促進し、関連する結果を航空会社や他の空域に速やかに通知する
- GNSSジャマーの使⽤を制限するために国家レベルでの議論を開始する。
- この SIB の内容が、ヘリコプター操縦者、ATM/ANS プロバイダー、航空機および機器の製造業者を含む航空オペレーターによって正式に考慮されていることを確認します。
- 関連する CAA、国家電気通信当局と連携して、GNSS 劣化に関する情報を収集するプロセスを確⽴し、関連する結果を航空会社および他の空域利⽤者に速やかに通知する。
- GNSS ベースのタイミングの損失または異常が CNS システムに及ぼす影響を評価します。
- NOTAM を発⾏して空域ユーザーに関連情報を提供する(必要に応じて、州レベルで決定される)
- GNSS ⼲渉に強い信頼性の⾼い監視範囲を提供します。
重要な従来のナビゲーションインフラストラクチャの運⽤を維持する(計器着陸)システム、距離測定装置 (DME)、超短波全⽅向範囲(VOR)) 従来のナビゲーション⼿順をサポートします。 - 緊急時対応計画に、⼤規模な災害が発⽣した場合に従うべき⼿順が含まれていることを確認するGNSS 妨害および/またはスプーフィング イベント。
- ⾶⾏軌跡/ルートからの逸脱を防ぐために交通状況を注意深く監視してください。
- GNSS 機器や関連アビオニクスの中断、劣化、または異常な性能が観察された場合、特別航空報告 (AIREP) を利⽤して航空交通サービスに迅速に報告することの重要性を運航乗務員が認識し、訓練されていることを確認します。
GNSS スプーフィングの疑い、GNSS ⼲渉の位置と継続時間)。 - 運航乗務員にタイムリーな情報を提供して、妨害電波やなりすましに対する認識を⾼めるために、運航の種類に基づいて考えられるさまざまなシナリオを評価する。
- GNSS の停⽌またはなりすましのトピックが運航乗務員の地上での繰り返しに含まれていることを確認します。
関連する運⽤上のリスクと制限を評価します。 - 影響を受けた地域で航空機を運航する前に、最⼩装備リストに従って、動作しない無線航法システムを搭載した航空機の派遣によってもたらされる運航制限を確実に考慮すること。
- ⾶⾏計画と実⾏の段階で、代替の従来の到着および進⼊⼿順が利⽤可能であることを確認する(たとえば、増強を含む GNSS のみを備えた被災地域の⾶⾏場では、進⼊⼿順を⽬的地または代替として考慮すべきではない)。
- スプーフィングについて: 航空機または機器の製造元に問い合わせて、⾃社製品のスプーフィング事例への対処⽅法と標準運⽤⼿順の推奨事項の実施⽅法について指⽰を求めてください。
- 運航乗務員および関連する運航運⽤担当者が次のことを確実に⾏うようにします。
- GNSS 妨害の可能性を認識していること。
- ⾶⾏中に従来のナビゲーション補助装置を使⽤して航空機の位置を確認する被災地に近い場所でオペレーションを⾏う。
- ナビゲーション補助装置が、意図したルートとアプローチの操作に重要であることを確認します。
- 必要に応じて⾮ GNSS 到着⼿順に戻す準備を整えておき、通知するこのような場合の航空交通サービス。そして、観察された異常を航空交通機関に報告 (AIREP) します。
- 運航乗務員および関連する航空運航担当者が次のことを確実に⾏うようにします。
- GNSS スプーフィングの可能性を認識していること。
- ⾮ GNSS 航法⼠と、推定位置不確実性 (EPU) の数値を含む、利⽤可能なすべての⾃動航法精度計算を使⽤して、航空機の位置を継続的に監視します。
- GNSS 時間ソースと⾮ GNSS 時間ソースを監視します。
- スプーフィング エリア付近の ATC 周波数を注意深く監視します。
- 疑わしい場合の対処については、航空機の種類に応じたメーカーの指⽰を適⽤します。
⾮網羅的なリストは次のとおりです。
- HDG モードを選択し、⾶⾏コースを⼿動で調整する準備ができていること。
- 必要な限り ATC に検証ベクトルを要求する準備ができていること。
- IRS や IRS などの代替 PNT とクロスチェックし、代替 PNT に切り替える準備ができていること。
利⽤可能な地上設備(Multi-DME および VOR/DME)。 - 影響を受けるエリア内の GNSS 信号を除外する準備ができていること。
- INS/IRS の⾃動更新を無効にする準備ができていること。
- 航空会社の製品を使⽤する際に、GNSS スプーフィングの疑いがあるイベントに対処する⽅法に関する指⽰を提供することにより、航空会社をサポートします。
欧州連合航空安全局 (EASA) の安全情報速報 (SIB) PDFファイル
06 November 2023
このようにドローンだけではなく衛星測位システムに依存したシステムでは全般的に危険性が指摘されており、軍事ドローンは当然ですが、使用する測位システムの冗長性を確保する何らかの手立てが必要になる可能性があり、衛星測位システムに依存しない自立航法での飛行が研究・実用化されています。民間のドローンに関しては、幸い短距離の飛行がメインになると想定されることから、測位衛星の電波の届かない屋内やトンネル内などでの使用が考えられるので、それらの分野のドローンから自立航法が実用化されつつあるようです。
GPSジャミングが影響しているエリアについて詳しくは以下にまとめています。
GPSジャミングマップ(GPS jamming map) 現在のジャミングを地図上に表示