6.3 機体の種類に応じた運航リスクの評価及び最適な運航の計画の立案【教則学習(第3版)】
2024年3月28日
2024年3月28日
6. 運航上のリスク管理 6.3 機体の種類に応じた運航リスクの評価
及び最適な運航の計画の立案
教則の本文を黒色に、独自に追記した補足説明や注釈を別色で記載しています。
6.3.1 飛行機
(1) 飛行機の運航の特徴
滑走により離着陸する飛行機は、回転翼航空機よりも広い離着陸エリアが必要である。また回転翼航空機と比べて、飛行中の最小旋回半径が大きくなることが特徴である。
飛行機の運航は、離陸、着陸共に、向い風を受ける方向から行う。横風の場合でもできるだけ向かい風方向で行うが操縦の難易度は高くなる。追い風の離着陸は失速のおそれがあるので行わない。回転翼航空機と違いホバリング(空中停止)はできない。上空待機を行う場合はサークルを描くように旋回飛行を行う。着陸は失速しない程度に速度を下げて行うため、高度なエレベーター操作が必要となる。
失速(ストール[Stall])
失速(ストール[Stall])
流体力学において失速とは、フォイルが発生する揚力係数が迎え角の増加に伴って減少することである。 これは、フォイルの臨界迎え角を超えたときに発生する。臨界迎角は通常約15°であるが、流体、フォイル、レイノルズ数によって大きく異なる場合がある。
固定翼航空機の失速(ストール[Stall])は、空気力学や航空学において、迎角がある一定以上に、大きくなると揚力が減少し始める状態のことを表します。揚力が減少し始める角度を臨界迎角といい、この角度は翼断面や翼型、アスペクト比などによって異なるりますが、一般的に臨界迎角は通常約15°と言われています。パイロットが翼の迎え角を大きくし、その臨界迎え角を超えたときに発生するものですが、水平飛行中に失速速度以下に減速してしまった場合にも、必要な揚力が得られず、結果的に臨界迎え角を超え、揚力が急速に減少します。ストールとも表現されますが、エンジンが停止したこと(エンジンストール いわゆるエンスト)を表しているものではありません。飛行中にエンジンが停止しても翼に一定以上の風を切っている状態(失速速度以上)であれば、突然、揚力を失う事はありません。動力のないグライダーの様な航空機でも、この現象は起こり得るということでもあります。
対気速度の低下による失速
対気速度の低下によって失速という現象が生じる場合がある。飛行機が水平を保ち速度を下げていったとき、揚力の不足で垂直方向に落下を始めます。このとき翼に正面から当たっていた気流が斜め下から当たることになります。結果、迎角が大きくなり失速状態になります。この場合、速度を上げれば当然ながら失速状態から回復する事ができますが、機体のトラブルなどで速度を上げることができない場合、無理に水平を保とうとせず、機首を下げれば迎角が減少し失速から回復します。また、下降することで速度が増して再び水平飛行に移る事もできる可能性があります。ただしこのような操作を行うためには、回復するまでに墜落しないだけの十分な高度が必要になります。
(2) 使用機体と飛行計画を元にしたリスク軽減策の検討要素の例〔一等〕
飛行機の飛行計画においては気象、経路、緊急着陸地点の確保が重要である。離着陸においては向かい風で行うため風向の予測と風向に適した滑走路の確保が必要となる。また地上風速だけでなく上空の風速の確認(アプリ等)も重要である。地上経路設定においては過度な上昇角度、過度に旋回半径が小さくならないようにする。緊急着陸は滑空により行うので広範囲のエリアが必要となる。リスク低減策の例として以上のような点が挙げられるが、飛行計画が正しく設定されているか、複数人で確認を行う運航者の体制も重要である。
(3) リスク軽減策を踏まえた運航の計画の立案の例〔一等〕
飛行機において、リスク軽減策を踏まえた運航計画の立案の際に留意すべき要素の例として、以下の項目が挙げられる。
1) 離陸及び着陸
- 離着陸地点は操縦者及び補助者と 20m 以上離れることを推奨する。取扱説明書等に、推奨距離が記載されている場合は、その指示に従う。
- 離着陸地点は滑走範囲も考慮して周囲の物件から 30m以上離すことができる場所を選定する。距離が確保できない場合は、補助者を配置するなどの安全対策を講じる。
- 離陸後は失速しない適度な速度と角度を保って上昇する。 着陸は失速しない程度の低速度で滑走路に確実に進入させ、安全に接地させる。
2) 飛行
- 上昇させる場合は、取扱説明書等で指定された上昇角度以内で飛行させる。
- 旋回させる場合は、取扱説明書等で指定された旋回半径以内で飛行させる。
- 降下させる場合は、取扱説明書等で指定された速度以内で飛行させる。
- 飛行中断に備え、飛行経路上又はその近傍に緊急着陸地点を事前に選定する。第三者の立入りを制限できる場所の選定又は補助者の配置を検討する。
6.3.2 回転翼航空機(ヘリコプター)
(1) 回転翼航空機(ヘリコプター)の運航の特徴
回転翼航空機(ヘリコプター)は、構造上プロペラガードがない機体が一般的であるため、安全のためにプロペラガード付きの回転翼航空機(マルチローター)よりも広い離着陸エリアが必要である。離着陸において、機体と操縦者及び補助者の必要隔離距離を取扱説明書等で確認するとともに、十分確保すること。
機体高度が、およそメインローター半径以下になると、地面効果の影響が顕著になりやすいため、推力変化及びホバリング時の安定・挙動に注意が必要である。
前進させながら上昇させた方が必要パワーを削減できるため、垂直上昇は避けることが望ましい。山間部又は斜面に沿って飛行させる場合、吹き下ろし風が強いと上昇できない場合があり、注意が必要である。
垂直降下又は降下を伴う低速前進時は、ボルテックス・リング・ステートとなり、急激に高度が低下し回復できない危険性がある。前進させながら降下することは、ボルテックス・リング・ステートの予防に有効である。
オートローテーション機構を装備している機体は、動力が停止しても軟着陸が可能である。ただし、オートローテーションに入るためには必要な操作、飛行高度範囲及び速度範囲がある。
前進させながら上昇させた方が必要パワーを削減できるため、垂直上昇は避けることが望ましい。山間部又は斜面に沿って飛行させる場合、吹き下ろし風が強いと上昇できない場合があり、注意が必要である。
垂直降下又は降下を伴う低速前進時は、ボルテックス・リング・ステートとなり、急激に高度が低下し回復できない危険性がある。前進させながら降下することは、ボルテックス・リング・ステートの予防に有効である。
オートローテーション機構を装備している機体は、動力が停止しても軟着陸が可能である。ただし、オートローテーションに入るためには必要な操作、飛行高度範囲及び速度範囲がある。
(2) 回転翼航空機(ヘリコプター)の使用機体と飛行計画を元にしたリスク軽減策の検討要素の例〔一等〕
回転翼航空機(ヘリコプター)において、使用機体と飛行計画を元にしたリスク軽減策の検討要素の例として、以下の項目が挙げられる。
1) 離陸及び着陸
- 離着陸地点において、機体と操縦者、補助者及び周囲の物件との必要な安全距離を確保する。
- 地面効果範囲内の飛行時間を短くする。
2) 飛行
- 余裕を持った上昇率を設定する。
- ボルテックス・リング・ステートを予防できる降下方法を選定する。
- 緊急着陸地点の安全確保方法を飛行前に検討する。
- オートローテーション機能を理解し、飛行訓練を実施する。(オートローテーション機能付きの場合)。
(3) リスク軽減策を踏まえた運航の計画の立案の例〔一等〕
回転翼航空機(ヘリコプター)において、リスク軽減策を踏まえた運航計画の立案の際に留意するべき要素の例として、以下の項目が挙げられる。
1) 離陸及び着陸
- 離着陸地点は操縦者及び補助者と 20m 以上離れることを推奨する。取扱説明書等に、推奨距離が記載されている場合は、その指示に従う。
- 離着陸地点は周囲の物件から30m以上離すことができる場所を選定する。距離が確保できない場合は、補助者を配置するなどの安全対策を講じる。
- 離陸後は速やかに地面効果外まで上昇する。機体状況の確認は地面効果外とする。
2) 飛行
- 上昇させる場合は、取扱説明書等で指定された上昇率以内で飛行させる。
- 前進させながら上昇させる飛行経路を検討する。
- 降下させる場合、ボルテックス・リング・ステートに入ることを予防するため、取扱説明書等で指定された降下率範囲及び降下方法で飛行させること。
- 飛行中断に備え、飛行経路上又はその近傍に緊急着陸地点を事前に選定する。プロペラガード等の安全装備がない機体の場合、第三者の立入りを制限できる場所の選定又は補助者の配置を検討する。
- オートローテーション機能を装備した機体を運航する場合、機能が発揮できる条件を運航の計画に考慮する。
6.3.3 回転翼航空機(マルチローター)
(1) 回転翼航空機(マルチローター)の運航の特徴
回転翼航空機(マルチローター)は複数のローターを機体周辺に備え、ローターを回転させることにより揚力を得て垂直上昇し、フライトコントロールシステムにより安定した飛行を行うことができる。
(2) 回転翼航空機(マルチローター)の使用機体と飛行計画を元にしたリスク軽減策の検討要素の例〔一等〕
回転翼航空機(マルチローター)において、使用機体と飛行計画を元にしたリスク軽減策の検討要素の例として、以下の項目が挙げられる。
1) 離陸及び着陸
- 離着陸地点において、機体と操縦者、補助者及び周囲の物件との必要な安全距離を確保する。
- 地面効果範囲内の飛行時間を短くする。
2) 飛行
- 飛行経路において人や物件との必要な安全距離を確保する。
- 緊急着陸地点の安全確保方法を飛行前に検討する。
- 自動帰還時の高度を障害物等が回避できる安全な高さに設定する。
(3) リスク軽減策を踏まえた運航の計画の立案の例〔一等〕
回転翼航空機(マルチローター)において、リスク軽減策を踏まえた運航計画の立案の際に留意するべき要素の例として、以下の項目が挙げられる。
1) 離陸及び着陸
- 離陸地点は操縦者及び補助者との距離を3m以上保つか、機体の取扱説明書に推奨距離が記載されている場合はその指示に従う。
- 離陸地点は周囲の物件から 30m以上離すことができる場所を選定する。距離が確保できない場合は、補助者を配置するなどの安全対策を講じる。
2) 飛行
- 飛行経路での最高飛行高度の設定を行う。
- 飛行中断に備え、飛行経路上又はその近傍に緊急着陸地点を事前に選定する。プロペラガード等の安全装備がない機体の場合、第三者の立入りを制限できる場所の選定又は補助者の配置を検討する。操縦者も必要に応じて保護具を使用する。
離着陸地点での操縦者及び補助者との距離は機体の種類で異なります。
機体の種類 | 離着陸地点の操縦者及び補助者との距離 |
飛行機 | 20m 以上離れることを推奨 |
回転翼航空機(ヘリコプター) | 20m 以上離れることを推奨 |
回転翼航空機(マルチローター) | 3m 以上保つ |
6.3.4 大型機(最大離陸重量 25kg 以上)
(1) 大型機(最大離陸重量 25kg 以上)の運航の特徴
大型機(最大離陸重量 25kg 以上)は、事故発生時の影響が大きいことから、操縦者の運航への習熟度及び安全運航意識が十分に高いことが要求される。大型機は機体の慣性力が大きいことから、増速・減速・上昇・降下などに要する時間と距離が長くなるため、障害物回避には特に注意が必要である。緊急着陸地点の選定も小型機よりは広い範囲が要求される。一般に小型の機体よりも騒音が大きくなるため、飛行経路周囲への配慮が必要である。
(2) 大型機(最大離陸重量25kg以上)の使用機体と飛行計画を元にしたリスク軽減策の検討要素の例〔一等〕
大型機において、使用機体と飛行計画を元にしたリスク軽減策の検討要素の例として、以下の項目が挙げられる。
- 飛行速度に応じた障害物回避に必要な時間や距離を事前に把握する。
- 安全な緊急着陸地点を選定する。
- 離着陸地点及び飛行経路周辺の騒音問題対応を検討する。
(3) リスク軽減策を踏まえた運航の計画の立案の例〔一等〕
大型機において、リスク軽減策を踏まえた運航計画の立案の際に留意するべき要素の例として、以下の項目が挙げられる。
- 障害物回避など機体の進行方向を変える場合は、時間的、距離的な余裕を十分に考慮した飛行経路及び飛行速度を設定する。
- 緊急着陸地点は、第三者の進入が少ない場所(河川敷、農地など)を選定する。
- 離着陸地点を含む飛行経路近隣エリアへの事前説明、調整を計画する。
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