宇宙の天気予報 と 太陽現象 「太陽フレア、地磁気擾乱、電離圏嵐、デリンジャー現象」
2024年5月31日
2024年9月5日
宇宙天気予報 (Space Weather Forecast)
「宇宙天気予報」と聞いて、明日の月は晴れ、火星は雨、のようなものを想像する方もいるかもしれません。実際には、太陽が静かに活動を続けている間は気づかれずにいますが、太陽からエネルギーを大放出する現象が起きると、地球の周りの宇宙空間に大きな影響を及ぼします。「宇宙天気予報」とは、このような太陽の活発な活動とその結果生じる現象を予測し、注意を促すものです。宇宙飛行士の有人活動はもちろん、人工衛星や航空機の運用にも大きな影響があるため、最新の太陽観測データに基づき予報が行われています。火星に雨が降るわけではありませんが、太陽嵐に見舞われたら、地球の電子機器にも障害が出る可能性があります。無人航空機の飛行にも影響を与えうるものも含まれるので、宇宙天気の変化とその影響について、あらためて知ってみるのも良いと思います。
宇宙天気予報 https://swc.nict.go.jp/
この「宇宙天気予報」は、国立研究開発法人情報通信研究機構の電磁波研究所宇宙環境研究室が運営する、専門的な宇宙天気情報を配信するウェブサイトです。
同研究機構(およびその前身組織)では、1949年から宇宙環境に関する予報・警報の配信を行っており、1988年に「宇宙天気予報」業務が開始されました。1996年にはISES[International Space Environment Service](国際宇宙環境サービス)の地域警報センターとしても宇宙天気情報を提供しています。
2019年からは国際民間航空機関(ICAO)のグローバル宇宙天気センターの一員として、太陽活動による通信・衛星測位への影響や放射線被ばく量などの宇宙天気情報を提供しています。長年にわたり宇宙環境監視と情報発信を行っています。
宇宙環境の比較的穏やかな時期と、活動が活発な時期のサイトのキャプチャを並べてみました。太陽フレアやプロトン現象、デリンジャー現象のレベルが上がっているのがわかると思います。
宇宙天気予報 https://swc.nict.go.jp/
この「宇宙天気予報」は、国立研究開発法人情報通信研究機構の電磁波研究所宇宙環境研究室が運営する、専門的な宇宙天気情報を配信するウェブサイトです。
同研究機構(およびその前身組織)では、1949年から宇宙環境に関する予報・警報の配信を行っており、1988年に「宇宙天気予報」業務が開始されました。1996年にはISES[International Space Environment Service](国際宇宙環境サービス)の地域警報センターとしても宇宙天気情報を提供しています。
2019年からは国際民間航空機関(ICAO)のグローバル宇宙天気センターの一員として、太陽活動による通信・衛星測位への影響や放射線被ばく量などの宇宙天気情報を提供しています。長年にわたり宇宙環境監視と情報発信を行っています。
宇宙環境の比較的穏やかな時期と、活動が活発な時期のサイトのキャプチャを並べてみました。太陽フレアやプロトン現象、デリンジャー現象のレベルが上がっているのがわかると思います。
クレジット: NASA/SDO
宇宙天気と太陽活動について
太陽の光や熱は地球上の生き物にとって欠かすことのできないものですが、同時に生命にとって有害なX線や紫外線、高温の電離気体をも放出しています。太陽から放出されるX線や紫外線などの生命に有害な、これらの電磁波が地上に届くのを大気が防いでいます。また、地球の持つ磁場で、太陽からくる「太陽風」と呼ばれる電気を帯びた気体の流れから地球を守っています。このように太陽の活動が人類の活動に大きな影響を与える影響があることから、日々変化する太陽の活動を観測し変化を予測することが、必要とされています。
太陽活動によって引き起こされる影響
- 短波通信の障害
大きな太陽フレアが起こると、デリンジャー現象が発生し、短波通信ができなくなったり、ラジオ放送が聞こえなくなることがあります。短波通信障害の発生確率は、以下のいずれかの現象のレベルが上がった場合に高くなります。 - 航空機の航路変更
宇宙天気の乱れにより、地上管制との通信障害、測位誤差、および搭乗員の被曝量に影響が発生する場合があります。以下のいずれかの現象のレベルが上がった際は、各航空会社の判断により、航空機の航路が変更される場合があります。 - 人工衛星の障害
太陽高エネルギー粒子や磁気圏プラズマ粒子の影響により、以下のいずれかのレベルが上がった際に高くなります。 - 測位(GPS)の誤差
電離圏が乱れると、人工衛星からの電波到来時間から位置情報を得る測位機能に誤差が大きく出ることがあります。宇宙環境の乱れによる測位誤差は、以下のいずれかの現象のレベルが高い場合に発生する可能性があります。 - 宇宙飛行士などの被曝
高エネルギー粒子の増大により、宇宙飛行士は被曝することがあります。 宇宙飛行士の被曝を防ぐため、以下のいずれかのレベルが上がった際は、 船外活動が中止される場合があります。 - 送電施設のトラブル
地磁気が大きく乱れることで誘導電流が発生し、その影響で送電施設に障害が生じて停電が起こることがあります。以下の現象のレベルが高いときにトラブルが発生する確率が高くなります。 - オーロラが見える
オーロラは、宇宙環境が荒れているときに活発になります。 以下の現象のレベルが非常に高いときには日本でも赤いオーロラが見られる可能性があります。
オーロラの予報とメカニズムについて詳しく以下にまとめました
オーロラ発生の可能性を予報する オーロラ予報 オーロラフォーキャスト
宇宙の天気概況と予報
以下のようにそれぞれの項目にレベル分けをして表示するようになっています。表示項目 | Lv. | レベルの説明 | 内容 |
---|---|---|---|
太陽フレア | 1 | 静穏 | Cクラス以上の太陽フレアが発生しないと予測される |
2 | やや活発 | Cクラスの太陽フレアが発生すると予測される | |
3 | 活発 | Mクラスの太陽フレアが発生すると予測される | |
4 | 非常に活発 | Xクラスの太陽フレアが発生すると予測される | |
プロトン現象 | 1 | 静穏 | 10 MeV以上のプロトン粒子の最大フラックスは10 PFU未満と予測される |
2 | 警戒 | 10 MeV以上のプロトン粒子フラックスは上昇すると予測される | |
3 | 継続 | 10 MeV以上のプロトン粒子の最大フラックスは10 PFU以上で推移すると予測される |
磁気圏現象 - 予報
表示項目 | Lv. | レベルの説明 | 内容 |
---|---|---|---|
地磁気擾乱 | 1 | 静穏 | 地磁気K指数(柿岡)の最大値が4未満と予測される |
2 | やや活発 | 地磁気K指数(柿岡)の最大値が4と予測される | |
3 | 活発 | 地磁気K指数(柿岡)の最大値が5と予測される | |
4 | 非常に活発 | 地磁気K指数(柿岡)の最大値が6と予測される | |
5 | 猛烈に活発 | 地磁気K指数(柿岡)の最大値が7以上と予測される | |
放射線帯電子 | 1 | 静穏 | GOES衛星が観測する2 MeV以上の電子の24時間フルエンスが3.8 x 107[/cm2 sr] 未満と予測される |
2 | やや高い | GOES衛星が観測する2 MeV以上の電子の24時間フルエンスが3.8 x 107 以上 3.8 x 108 [/cm2 sr] 未満と予測される | |
3 | 高い | GOES衛星が観測する2 MeV以上の電子の今後24時間のフルエンスが3.8 x 108 以上 3.8 x 109 [/cm2 sr] 未満と予測される | |
4 | 非常に高い | GOES衛星が観測する2 MeV以上の電子の今後24時間のフルエンスが3.8 x 109 [/cm2 sr] 以上と予測される |
電離圏現象 - 予報
表示項目 | Lv. | レベルの説明 | 内容 |
---|---|---|---|
電離圏嵐 | 1 | 静穏 | 活発な電離圏嵐の発生がないと予測される |
2 | 活発 | 電離圏嵐指標が2時間以上継続して、IP2(基準値+3σより大きく基準値+5σ以下)またはIN2(基準値-3σ以上基準値-2σ未満)になると予測される | |
3 | 非常に活発 | 電離圏嵐指標が2時間以上継続して、IP3(基準値+5σより大きい)またはIN3 (基準値-3σ未満)になると予測される | |
デリンジャー現象 | 1 | 静穏 | デリンジャー現象が発生する確率が低い(約30%未満)と予測される |
3 | 高い | デリンジャー現象が発生する確率が高い(約50%以上)と予測される | |
スポラディックE層 | 1 | 静穏 | Es層臨界周波数(foEs)の国内の最大値が8 MHz未満と予測される |
2 | 非常に活発 | foEsの国内の最大値が8 MHz以上と予測される |
太陽現象 - 現況
表示項目 | Lv. | レベルの説明 | 内容 |
---|---|---|---|
太陽フレア | 1 | 静穏 | 直近のX線フラックスが10-6 [W/m2]未満 |
2 | やや活発 | 直近のX線フラックスが10-6以上10-5 [W/m2]未満 | |
3 | 活発 | 直近のX線フラックスが10-55以上10-4 [W/m2]未満 | |
4 | 非常に活発 | 直近のX線フラックスが10-4 [W/m2]以上 | |
プロトン現象 | 1 | 静穏 | 10 MeV以上のプロトン粒子の最大フラックスは10 PFU未満 |
3 | 継続 | 10 MeV以上のプロトン粒子の最大フラックスは10 PFU以上 |
磁気圏現象 - 現況
表示項目 | Lv. | レベルの説明 | 内容 |
---|---|---|---|
地磁気擾乱 | 1 | 静穏 | 最新3時間の地磁気K指数(柿岡)の最大値が4未満 |
2 | やや活発 | 最新3時間の地磁気K指数(柿岡)の最大値が4 | |
3 | 活発 | 最新3時間の地磁気K指数(柿岡)の最大値が5 | |
4 | 非常に活発 | 最新3時間の地磁気K指数(柿岡)の最大値が6 | |
5 | 猛烈に活発 | 最新3時間の地磁気K指数(柿岡)の最大値が7以上 | |
放射線帯電子 | 1 | 静穏 | GOES衛星が観測した2 MeV以上の電子の24時間フルエンスが3.8 x 107[/cm2 sr] 未満 |
2 | やや高い | GOES衛星が観測した2 MeV以上の電子の24時間フルエンスが3.8 x 107 以上 3.8 x 108 [/cm2 sr] 未満 | |
3 | 高い | GOES衛星が観測した2 MeV以上の電子の24時間のフルエンスが3.8 x 108 以上 3.8 x 109 [/cm2 sr] 未満 | |
4 | 非常に高い | GOES衛星が観測した2 MeV以上の電子の過去24時間のフルエンスが3.8 x 109 [/cm2 sr] 以上 |
電離圏現象 - 現況
表示項目 | Lv. | レベルの説明 | 内容 |
---|---|---|---|
電離圏嵐 | 1 | 静穏 | 活発な電離圏嵐の発生はない |
2 | 活発 | 電離圏嵐指標が2時間以上継続して、IP2(基準値+3σより大きく基準値+5σ以下)またはIN2(基準値-3σ以上基準値-2σ未満) | |
3 | 非常に活発 | 電離圏嵐指標が2時間以上継続して、IP3(基準値+5σより大きい)またはIN3 (基準値-3σ未満) | |
デリンジャー現象 | 1 | 静穏 | デリンジャー現象は日本で発生していない |
3 | 発生 | デリンジャー現象が日本で発生していると確認された | |
スポラディックE層 | 1 | 静穏 | Es層の発生はない(Es層臨界周波数(foEs)が、下記の「やや活発」「活発」ではない) |
2 | やや活発 | foEsが15分以上継続して4.5 MHz以上8 MHz未満 | |
3 | 非常に活発 | foEsが15分以上継続して8 MHz以上 |
宇宙天気現象の予報項目
以下の項目の予報と現況を確認することが出来ます。
太陽領域>太陽フレア、プロトン現象磁気圏領域>地磁気擾乱、放射線帯電子電離圏領域>電離圏嵐、デリンジャー現象、スポラディックE層
太陽フレア(Solar flare)
太陽フレアは、太陽表面で起こる非常に大規模な爆発現象で、太陽大気から放出される電磁放射の噴出です。これは、(通常は黒点の上にある)ねじれた磁力線中に蓄えられたエネルギーが、突然解放されるときに起こります。
わずか数分の間に、太陽フレアは物質を数百万度に加熱し、電子、陽子、重い性質のイオンが光速に近い速度まで加速されます。フレアは、電磁波スペクトルの全域(電波からX線、ガンマ線まで)にわたって電波からガンマ線に至るまで電磁放射を放出します。小規模なものは1日3回ほど起きています。フレアは、強力な磁場が光球を貫いてコロナと太陽内部を結び付ける活動領域、しばしば黒点の周りで発生します。フレアはコロナに蓄えられた磁気エネルギーが突然、数分から数十分のスケールで解放されることによって発生します。
しばしば、コロナ質量放出(CME)、太陽粒子現象、その他の噴出現象を引き起こす可能性があります。
太陽フレアから放出される極端紫外線やX線は、地球の昼間側上層大気、特にイオン層によって吸収され、地表には到達しません。この吸収によりイオン層のイオン化が一時的に高まり、短波帯の電波通信に障害が出る可能性があります。太陽フレアの予測は活発な研究分野です。
以下の項目の予報と現況を確認することが出来ます。
太陽領域>太陽フレア、プロトン現象
太陽領域>太陽フレア、プロトン現象
磁気圏領域>地磁気擾乱、放射線帯電子
電離圏領域>電離圏嵐、デリンジャー現象、スポラディックE層
太陽フレア(Solar flare)
太陽フレアは、太陽表面で起こる非常に大規模な爆発現象で、太陽大気から放出される電磁放射の噴出です。これは、(通常は黒点の上にある)ねじれた磁力線中に蓄えられたエネルギーが、突然解放されるときに起こります。
わずか数分の間に、太陽フレアは物質を数百万度に加熱し、電子、陽子、重い性質のイオンが光速に近い速度まで加速されます。フレアは、電磁波スペクトルの全域(電波からX線、ガンマ線まで)にわたって電波からガンマ線に至るまで電磁放射を放出します。小規模なものは1日3回ほど起きています。フレアは、強力な磁場が光球を貫いてコロナと太陽内部を結び付ける活動領域、しばしば黒点の周りで発生します。フレアはコロナに蓄えられた磁気エネルギーが突然、数分から数十分のスケールで解放されることによって発生します。
しばしば、コロナ質量放出(CME)、太陽粒子現象、その他の噴出現象を引き起こす可能性があります。
太陽フレアから放出される極端紫外線やX線は、地球の昼間側上層大気、特にイオン層によって吸収され、地表には到達しません。この吸収によりイオン層のイオン化が一時的に高まり、短波帯の電波通信に障害が出る可能性があります。太陽フレアの予測は活発な研究分野です。
わずか数分の間に、太陽フレアは物質を数百万度に加熱し、電子、陽子、重い性質のイオンが光速に近い速度まで加速されます。フレアは、電磁波スペクトルの全域(電波からX線、ガンマ線まで)にわたって電波からガンマ線に至るまで電磁放射を放出します。小規模なものは1日3回ほど起きています。フレアは、強力な磁場が光球を貫いてコロナと太陽内部を結び付ける活動領域、しばしば黒点の周りで発生します。フレアはコロナに蓄えられた磁気エネルギーが突然、数分から数十分のスケールで解放されることによって発生します。
しばしば、コロナ質量放出(CME)、太陽粒子現象、その他の噴出現象を引き起こす可能性があります。
太陽フレアから放出される極端紫外線やX線は、地球の昼間側上層大気、特にイオン層によって吸収され、地表には到達しません。この吸収によりイオン層のイオン化が一時的に高まり、短波帯の電波通信に障害が出る可能性があります。太陽フレアの予測は活発な研究分野です。
フレア発生の頻度
太陽フレアの発生頻度は11年の太陽活動周期に従って変動します。典型的には、太陽活動極大期には1日に数回、極小期には1週間に1回未満の頻度で発生します。さらに、より強力なフレアは弱いフレアに比べて発生頻度が低くなります。例えば、X10級(最大級)のフレアは太陽活動周期あたり平均約8回発生しますが、M1級(小規模)のフレアは同周期あたり平均約2000回発生します。
エーリヒ・リーガーは1984年に共同研究者とともに、少なくとも第19太陽周期以降、ガンマ線を放出する太陽フレアの発生に約154日の周期性があることを発見しました。この周期性は後に様々な太陽物理データ、惑星間磁場でも確認され、リーガー周期と一般に呼ばれています。この周期の共鳴高調波も、太陽圏のほとんどのデータから報告されています。
様々なフレア現象の頻度分布は、べき乗則分布に従うことが知られています。例えば、電波、極端紫外線、硬X線・軟X線放射のピーク束、総エネルギー、フレアの継続時間などがべき乗則分布に従うことが分かっています。
太陽フレアの継続時間は、その計算に使用される電磁波の波長によって大きく左右されます。これは、異なる波長が太陽大気の異なる高度で異なるプロセスを通して放出されるためです。
フレアの継続時間の一般的な測定方法は、静止軌道にある米国の気象衛星 ゴーズ(GOES:Geostationary Operational Environmental Satellite)が0.05〜0.4ナノメートル(0.5〜4オングストローム[Å])および0.1〜0.8ナノメートル(1〜8オングストローム[Å])の波長帯の軟X線フラックスの半値全幅(FWHM)時間を測定することです。FWHMの時間は、フレアのフラックスが最大フラックスと背景フラックスの中間値に最初に到達してから、減衰する際にもう一度その値に達するまでの期間を指します。この測定方法を用いると、フレアの継続時間は約10秒から数時間の範囲にわたり、0.05〜0.4ナノメートルおよび0.1〜0.8ナノメートルの波長帯でそれぞれ約6分と11分の中央値となります。太陽フレアの噴出後、フレア発生源付近の反対の磁極領域を分ける中性線に沿って、高温プラズマからなる噴出後のループが形成され始めます。これらのループは光球から冠状に延び、時間の経過とともに発生源からより遠くにまで形成されていきます。これらの高温ループの存在は、フレアの減衰段階でも持続する加熱が原因だと考えられています。
C級以上の十分に強力なフレアの場合、ループが組み合わさり、噴出後アーケードと呼ばれる弓状の構造を形成することがあります。これらの構造体は、最初のフレアの発生から数時間から数日間持続する可能性があります。場合によっては、これらのアーケードの上部に、supra-arcade downflow と呼ばれる暗い下向きのプラズマの空隙が形成されることもあります。
太陽フレアの発生頻度は11年の太陽活動周期に従って変動します。典型的には、太陽活動極大期には1日に数回、極小期には1週間に1回未満の頻度で発生します。さらに、より強力なフレアは弱いフレアに比べて発生頻度が低くなります。例えば、X10級(最大級)のフレアは太陽活動周期あたり平均約8回発生しますが、M1級(小規模)のフレアは同周期あたり平均約2000回発生します。
エーリヒ・リーガーは1984年に共同研究者とともに、少なくとも第19太陽周期以降、ガンマ線を放出する太陽フレアの発生に約154日の周期性があることを発見しました。この周期性は後に様々な太陽物理データ、惑星間磁場でも確認され、リーガー周期と一般に呼ばれています。この周期の共鳴高調波も、太陽圏のほとんどのデータから報告されています。
様々なフレア現象の頻度分布は、べき乗則分布に従うことが知られています。例えば、電波、極端紫外線、硬X線・軟X線放射のピーク束、総エネルギー、フレアの継続時間などがべき乗則分布に従うことが分かっています。
太陽フレアの継続時間は、その計算に使用される電磁波の波長によって大きく左右されます。これは、異なる波長が太陽大気の異なる高度で異なるプロセスを通して放出されるためです。
フレアの継続時間の一般的な測定方法は、静止軌道にある米国の気象衛星 ゴーズ(GOES:Geostationary Operational Environmental Satellite)が0.05〜0.4ナノメートル(0.5〜4オングストローム[Å])および0.1〜0.8ナノメートル(1〜8オングストローム[Å])の波長帯の軟X線フラックスの半値全幅(FWHM)時間を測定することです。FWHMの時間は、フレアのフラックスが最大フラックスと背景フラックスの中間値に最初に到達してから、減衰する際にもう一度その値に達するまでの期間を指します。この測定方法を用いると、フレアの継続時間は約10秒から数時間の範囲にわたり、0.05〜0.4ナノメートルおよび0.1〜0.8ナノメートルの波長帯でそれぞれ約6分と11分の中央値となります。
エーリヒ・リーガーは1984年に共同研究者とともに、少なくとも第19太陽周期以降、ガンマ線を放出する太陽フレアの発生に約154日の周期性があることを発見しました。この周期性は後に様々な太陽物理データ、惑星間磁場でも確認され、リーガー周期と一般に呼ばれています。この周期の共鳴高調波も、太陽圏のほとんどのデータから報告されています。
様々なフレア現象の頻度分布は、べき乗則分布に従うことが知られています。例えば、電波、極端紫外線、硬X線・軟X線放射のピーク束、総エネルギー、フレアの継続時間などがべき乗則分布に従うことが分かっています。
太陽フレアの継続時間は、その計算に使用される電磁波の波長によって大きく左右されます。これは、異なる波長が太陽大気の異なる高度で異なるプロセスを通して放出されるためです。
フレアの継続時間の一般的な測定方法は、静止軌道にある米国の気象衛星 ゴーズ(GOES:Geostationary Operational Environmental Satellite)が0.05〜0.4ナノメートル(0.5〜4オングストローム[Å])および0.1〜0.8ナノメートル(1〜8オングストローム[Å])の波長帯の軟X線フラックスの半値全幅(FWHM)時間を測定することです。FWHMの時間は、フレアのフラックスが最大フラックスと背景フラックスの中間値に最初に到達してから、減衰する際にもう一度その値に達するまでの期間を指します。この測定方法を用いると、フレアの継続時間は約10秒から数時間の範囲にわたり、0.05〜0.4ナノメートルおよび0.1〜0.8ナノメートルの波長帯でそれぞれ約6分と11分の中央値となります。
太陽フレアの噴出後、フレア発生源付近の反対の磁極領域を分ける中性線に沿って、高温プラズマからなる噴出後のループが形成され始めます。これらのループは光球から冠状に延び、時間の経過とともに発生源からより遠くにまで形成されていきます。これらの高温ループの存在は、フレアの減衰段階でも持続する加熱が原因だと考えられています。
C級以上の十分に強力なフレアの場合、ループが組み合わさり、噴出後アーケードと呼ばれる弓状の構造を形成することがあります。これらの構造体は、最初のフレアの発生から数時間から数日間持続する可能性があります。場合によっては、これらのアーケードの上部に、supra-arcade downflow と呼ばれる暗い下向きのプラズマの空隙が形成されることもあります。
C級以上の十分に強力なフレアの場合、ループが組み合わさり、噴出後アーケードと呼ばれる弓状の構造を形成することがあります。これらの構造体は、最初のフレアの発生から数時間から数日間持続する可能性があります。場合によっては、これらのアーケードの上部に、supra-arcade downflow と呼ばれる暗い下向きのプラズマの空隙が形成されることもあります。
太陽フレアの分類
X線波長での最大の明るさに基づいて太陽フレアを分類しています。5つのカテゴリーがあり、最も激しいものをX級、X、M、C、B、Aの順に規模が小さくなります。最も小規模なものをA級に分類されています。- X級フレア
最大規模で、世界中で電波ブラックアウトを引き起こし、上層大気に長期にわたる放射線嵐を引き起こす大規模な現象です。 - M級フレア
中規模で、一般的に地球の極域で短期的な電波ブラックアウトを引き起こします。時々M級フレアの後に小さな放射線嵐が発生することがあります。 - C級フレア
小規模で、地球上ではほとんど影響がありません。C級フレアの最盛期でも、M級フレアの10分の1の強度しかありません。 - B級フレア
C級フレアの10分の1以下の小さな規模です。 - A級フレア
B級フレアの10分の1以下の非常に小さな規模で、地球への影響はありません。
フレアの強さを示すため、上記の五つのクラスのクラス記号の後ろに数字が付けられることがよくあります。数字が大きいほど、フレアが強いことを意味します。X*.*、M*.*のような形です。例えば、X19、X8.7、X3.4のような表し方をします。
- X級フレア
最大規模で、世界中で電波ブラックアウトを引き起こし、上層大気に長期にわたる放射線嵐を引き起こす大規模な現象です。 - M級フレア
中規模で、一般的に地球の極域で短期的な電波ブラックアウトを引き起こします。時々M級フレアの後に小さな放射線嵐が発生することがあります。 - C級フレア
小規模で、地球上ではほとんど影響がありません。C級フレアの最盛期でも、M級フレアの10分の1の強度しかありません。 - B級フレア
C級フレアの10分の1以下の小さな規模です。 - A級フレア
B級フレアの10分の1以下の非常に小さな規模で、地球への影響はありません。
フレアなのか、コロナ質量放出なのか
「フレア」が放射の爆発であるのに対し、「コロナ質量放出」(CME:Coronal mass ejection)は、磁力線に絡み付いた高温の荷電粒子(プラズマ)の巨大な泡を太陽から吹き飛ばす現象です。フレアとコロナ質量放出や他の噴出現象が同時に起こることもありますが、フレアだけが単独で発生することもあります。
これらの点は、太陽活動が地球と宇宙空間に与える影響を理解し予測する上で、重要な意味を持ちます。
太陽フレアから放出される電磁放射線は、直接的にイオン層(地球大気の上層charged層)や無線通信に影響を与えます。高エネルギー放射線は途中の粒子を励起しイオン化することもできます。
一方で、コロナ質量放出に伴って移動するエネルギー粒子は、電子機器や宇宙飛行士、高高度を飛行する航空機の乗客に損傷を与える可能性があります。さらにコロナ質量放出は地球磁場を変形させ、磁場の向きに影響を与えます(つまり羅針盤が使えなくなります)。さらには地球自体に電流を誘導する可能性もあり、これを地磁気嵐といいます。地磁気嵐は送電網への障害や通信衛星への損傷を引き起こすおそれがあります。
宇宙天気と太陽活動が地球に与える影響を理解し予測するためには、コロナ質量放出とフレアの両方を理解する必要があります。
プロトン現象(solar proton event)
太陽プロトン現象とは、太陽からの高エネルギープロトン(エネルギーがMeV~GeV)が地球近傍で観測されることをいいます。これらのプロトンは、主に太陽フレアやコロナ質量放出(CME)に伴って発生します。
太陽プロトン現象は、もともと太陽の活動領域で生じたフレアによるプロトンの加速が原因であると考えられていましたが、コロナ質量放出(CME)の発見以降、CMEに伴う惑星間衝撃波による加速が起源のものもあることが分かるようになりました。地球近傍で観測した太陽プロトンのフラックスの上昇率の違いから、徐々に発達するイベント(グラデュアルイベント:gradual event)と突発的なイベント(インパルシブイベント:impulsive event)に分けられ、それぞれプロトンの加速がフレア起源とCMEに伴う衝撃波起源であるとされています。グラデュアルイベントでは、相対的にゆっくりとフラックスが上昇し、その後、衝撃波の後ろ側に捕捉された粒子が観測されるのが特徴です。gradual eventの組成は、プロトンが80~90%、α粒子が10~20%、重粒子が1%程度といわれています。インパルシブイベントはグラデュアルイベントと比較して、フラックスが急激に上昇し、ヘリウム同位体比3He/4Heや重イオンの割合が高くなります。太陽から地球へのプロトンの伝播は、フレアの発生場所や惑星間空間磁場に依存します。太陽面でのフレアの発生位置と、地球の位置関係によって、地球で観測される太陽プロトンのフラックスが変わります。フレアが太陽面の西側で生じた場合、フラックスの急な上昇が見られますが、それに対して東側で生じた場合、相対的にゆるやかな上昇が見られます。また、特にインパルシブイベントの場合には、西側で生じたフレアによって生じたプロトンが地球に伝播する傾向があります。この原因は、惑星間空間磁場がパーカースパイラルの方向(回転する太陽からのらせん状に見える地場のことで地球付近では太陽に向かう方向から45度くらい斜めの方向)に向いていること、プロトンが磁場に平行方向に進みやすく、垂直方向の拡散が相対的に小さいことによります。
太陽プロトン現象は人間生活にも影響を与えます。フレアに伴い発生した高エネルギープロトンは、30分から数時間で地球に到達します。一部は磁気圏に入り込み、宇宙飛行士の被曝につながる最も大きな脅威となります。また、赤道面の静止衛星軌道に達したプロトンは、衛星機器の半導体にエラーを発生させたり、太陽電池パネルを劣化させたりするなどの障害を引き起こすことがあります。実際、1989年に頻発した太陽プロトン現象のため気象衛星や放送衛星の太陽電池が著しく劣化し、1回のプロトン現象で数年分の劣化が生じたという話もあります。
一方、太陽プロトンは中低緯度の電離圏に達することはできませんが、地球の磁力線沿いに極域の電離圏には入り込むことができます。その結果、極軌道の周回衛星や二次的に放射されたX線によって極周りの航空機に影響を及ぼすこともあるといわれています。実際に運航されている航空機が乗員の放射線被ばくの懸念からルートを変更するなどの対策をしています。極域電離圏に達した太陽プロトンによって、電離圏は強く電離され、極域を伝播する短波通信が影響を受ける極冠帯異常吸収が発生することがあります。極域を航行する航空機は短波を通信手段として使うこともあり、大きく影響を受けることになります。太陽プロトンがどの緯度まで到達できるかを示したものが、カットオフ緯度と呼ばれるものです。
地磁気擾乱(Geomagnetic disturbance)
太陽面での大規模な爆発により放出された高エネルギー粒子が地球に到達した際に観測されるような顕著な地磁気の乱れのことで、磁気嵐と呼ばれます。
太陽面での大規模な爆発により放出された高エネルギー粒子が地球に到達した際に観測されるような顕著な地磁気擾乱を磁気嵐と呼んでいます。地磁気の単位はnT(ナノテスラ)を用いますが、日本付近の平均的な地磁気の水平分力(H)の大きさは約3万nTで、静穏時の日変化の振幅は50nT程度ですが、磁気嵐の時は50~数百nTに達する地磁気変化(較差)が観測されることもあります。
磁気嵐は地球規模の現象ですが、観測点の緯度や経度により地磁気変化の様子も違って観測されます。中低緯度に位置する日本では、多くの磁気嵐は水平分力(H)の急増加をもって始まりますが、これを磁気嵐の急始(ssc:storm sudden commencement)といいます。このあと1時間から数時間くらいの間Hの増加した状態が続きます。この期間を初相(Initial phase)といいます。それに続いてHは急激に減少し始め、極小に達したのち回復に向かいます。この間を主相(Main phase)といい、その後の回復期を回復相(Recovery phase)或いは終相(Last phase)といいます。このような経過をとる磁気嵐を急始磁気嵐とよんでいますが、磁気嵐の中には急始の明瞭でないものもありこれを緩始磁気嵐と呼んでいます。
放射線帯電子(Radiation belt electron)
地球磁場に捕らわれた高エネルギーの荷電粒子が集まった領域です。その領域は高度約1000kmから50000km以上にわたって広がっており、主に数100keVから数10MeVの陽子や数10keVから数MeVの電子からなります。放射線帯の高エネルギー電子は衛星機体の外壁から侵入し、衛星内部で深部帯電を引き起こす原因となることがあり、帯電が進行すると絶縁破壊による放電により周辺機器が損害を受ける危険もあります。放射線帯はバンアレン帯と呼ばれます。バンアレン帯(Van Allen radiation belts)について1958年に打ち上げられたアメリカ合衆国最初の人工衛星エクスプローラー1号は、搭載した計測器の観測によって、地球の磁気圏内に強い放射線帯が存在し、地球の周囲をドーナツ状に取り巻いていることを発見しました。この放射線帯は、発見者の米国の物理学者バン=アレン(J.A.Van Allen)にちなんで、バンアレン帯と呼ばれています。バンアレン帯とは、赤道上空を中心に地球を取り巻く、放射線の強い二重のドーナツ状の領域のことです。宇宙から飛来する高エネルギーの陽子や電子が地球磁場に捕捉されてできた放射線帯で、有害な宇宙放射線を遮るバリアの役割を果たしています。 28億年から27億年前に、地球に磁場が発生し、それと併せてバンアレン帯が生み出されました。さらに大気により地球に直接降り注ぐ放射線が緩和されたことで、浅い温暖な海にも微生物が発生するようになったと考えられています。このバンアレン帯は、陽子や電子などの荷電粒子が地球の磁場に捕捉されて生じます。陽子と電子では、その空間分布が異なっています。電子は地表面から3000kmを中心とした帯構造の内帯と、地表面から20000kmを中心とする外帯の2重構造になっており、陽子は地表面から2000kmを中心とする一つの帯構造をしています。外帯の外部境界は地表面から60000km程度の位置にあります。地表面高度で6000kmから13000kmの間の領域は、内帯と外帯の中間領域にあたり、スロットと呼ばれる高エネルギー電子が少ない領域となっています。放射線帯中で、陽子は数百MeVほどまで、また電子は数十MeVほどまで加速されています。内帯は長期間にわたって安定して存在しますが、外帯は高速太陽風が低速太陽風を圧縮する領域や惑星間空間擾乱(ICME)などを起源とする地磁気嵐の発生で、高エネルギー粒子数が増大するなどの変化を見せます。なお、低軌道の人工衛星は内帯の内側、静止衛星の軌道(高軌道)は外帯の外側にあり、バンアレン帯の影響を受けにくい軌道を取っています。
電離圏嵐(Ionospheric storm)
電離圏の中で電子が最も多く含まれるF領域(F層)において、通常より顕著に電子密度が減少、 或いは増加する現象のことを指します。この現象は、主に磁気圏の乱れが発生した時に、 その影響が背景大気や電場の乱れなど様々な過程を経て電離圏に伝わって起こる事が知られています。
この電離圏嵐には、電子密度が減少する場合の「負相嵐」と、電子密度が増加する場合の「正相嵐」があります。負相嵐は、一般的に極域の加熱により大気組成が変化し、その大気が地球全体に循環するために生じます。 一方で、正相嵐は、赤道域に侵入した電場や大気の赤道向きの風の影響で電離圏が厚くなることで起こることが多いです。それぞれに与える影響がことなり、負相嵐の発生時には、F領域の臨界周波数が小さくなるため、通常では電離圏で反射される電波が周波数によっては反射されなくなります。 正相嵐の発生時には、電離圏を通過する電波の電離圏での遅延量が増大するため、GPSなどの衛星測位の誤差が増大する可能性があります。
負相嵐が発生するタイミングは、CMEなどの太陽風じょう乱が太陽から放出されてから3~4日後くらいで、じょう乱の惑星間空間の移動や磁気圏・大気圏の応答の時間に相当します。負相嵐が発生した際には、多くの場合は日中を通して継続します。規模の大きい現象の場合には静穏な状態に戻るまでに数日を要することもあります。負相嵐の発生領域については、高緯度に始まり、中緯度まで広がることもあります。
デリンジャー現象(Dellinger Effect)
「フレア」が放射の爆発であるのに対し、「コロナ質量放出」(CME:Coronal mass ejection)は、磁力線に絡み付いた高温の荷電粒子(プラズマ)の巨大な泡を太陽から吹き飛ばす現象です。フレアとコロナ質量放出や他の噴出現象が同時に起こることもありますが、フレアだけが単独で発生することもあります。
これらの点は、太陽活動が地球と宇宙空間に与える影響を理解し予測する上で、重要な意味を持ちます。
太陽フレアから放出される電磁放射線は、直接的にイオン層(地球大気の上層charged層)や無線通信に影響を与えます。高エネルギー放射線は途中の粒子を励起しイオン化することもできます。
一方で、コロナ質量放出に伴って移動するエネルギー粒子は、電子機器や宇宙飛行士、高高度を飛行する航空機の乗客に損傷を与える可能性があります。さらにコロナ質量放出は地球磁場を変形させ、磁場の向きに影響を与えます(つまり羅針盤が使えなくなります)。さらには地球自体に電流を誘導する可能性もあり、これを地磁気嵐といいます。地磁気嵐は送電網への障害や通信衛星への損傷を引き起こすおそれがあります。
宇宙天気と太陽活動が地球に与える影響を理解し予測するためには、コロナ質量放出とフレアの両方を理解する必要があります。
これらの点は、太陽活動が地球と宇宙空間に与える影響を理解し予測する上で、重要な意味を持ちます。
太陽フレアから放出される電磁放射線は、直接的にイオン層(地球大気の上層charged層)や無線通信に影響を与えます。高エネルギー放射線は途中の粒子を励起しイオン化することもできます。
一方で、コロナ質量放出に伴って移動するエネルギー粒子は、電子機器や宇宙飛行士、高高度を飛行する航空機の乗客に損傷を与える可能性があります。さらにコロナ質量放出は地球磁場を変形させ、磁場の向きに影響を与えます(つまり羅針盤が使えなくなります)。さらには地球自体に電流を誘導する可能性もあり、これを地磁気嵐といいます。地磁気嵐は送電網への障害や通信衛星への損傷を引き起こすおそれがあります。
宇宙天気と太陽活動が地球に与える影響を理解し予測するためには、コロナ質量放出とフレアの両方を理解する必要があります。
プロトン現象(solar proton event)
太陽プロトン現象とは、太陽からの高エネルギープロトン(エネルギーがMeV~GeV)が地球近傍で観測されることをいいます。これらのプロトンは、主に太陽フレアやコロナ質量放出(CME)に伴って発生します。
太陽プロトン現象は、もともと太陽の活動領域で生じたフレアによるプロトンの加速が原因であると考えられていましたが、コロナ質量放出(CME)の発見以降、CMEに伴う惑星間衝撃波による加速が起源のものもあることが分かるようになりました。地球近傍で観測した太陽プロトンのフラックスの上昇率の違いから、徐々に発達するイベント(グラデュアルイベント:gradual event)と突発的なイベント(インパルシブイベント:impulsive event)に分けられ、それぞれプロトンの加速がフレア起源とCMEに伴う衝撃波起源であるとされています。グラデュアルイベントでは、相対的にゆっくりとフラックスが上昇し、その後、衝撃波の後ろ側に捕捉された粒子が観測されるのが特徴です。gradual eventの組成は、プロトンが80~90%、α粒子が10~20%、重粒子が1%程度といわれています。インパルシブイベントはグラデュアルイベントと比較して、フラックスが急激に上昇し、ヘリウム同位体比3He/4Heや重イオンの割合が高くなります。太陽から地球へのプロトンの伝播は、フレアの発生場所や惑星間空間磁場に依存します。太陽面でのフレアの発生位置と、地球の位置関係によって、地球で観測される太陽プロトンのフラックスが変わります。フレアが太陽面の西側で生じた場合、フラックスの急な上昇が見られますが、それに対して東側で生じた場合、相対的にゆるやかな上昇が見られます。また、特にインパルシブイベントの場合には、西側で生じたフレアによって生じたプロトンが地球に伝播する傾向があります。この原因は、惑星間空間磁場がパーカースパイラルの方向(回転する太陽からのらせん状に見える地場のことで地球付近では太陽に向かう方向から45度くらい斜めの方向)に向いていること、プロトンが磁場に平行方向に進みやすく、垂直方向の拡散が相対的に小さいことによります。
太陽プロトン現象は人間生活にも影響を与えます。フレアに伴い発生した高エネルギープロトンは、30分から数時間で地球に到達します。一部は磁気圏に入り込み、宇宙飛行士の被曝につながる最も大きな脅威となります。また、赤道面の静止衛星軌道に達したプロトンは、衛星機器の半導体にエラーを発生させたり、太陽電池パネルを劣化させたりするなどの障害を引き起こすことがあります。実際、1989年に頻発した太陽プロトン現象のため気象衛星や放送衛星の太陽電池が著しく劣化し、1回のプロトン現象で数年分の劣化が生じたという話もあります。
一方、太陽プロトンは中低緯度の電離圏に達することはできませんが、地球の磁力線沿いに極域の電離圏には入り込むことができます。その結果、極軌道の周回衛星や二次的に放射されたX線によって極周りの航空機に影響を及ぼすこともあるといわれています。実際に運航されている航空機が乗員の放射線被ばくの懸念からルートを変更するなどの対策をしています。極域電離圏に達した太陽プロトンによって、電離圏は強く電離され、極域を伝播する短波通信が影響を受ける極冠帯異常吸収が発生することがあります。極域を航行する航空機は短波を通信手段として使うこともあり、大きく影響を受けることになります。太陽プロトンがどの緯度まで到達できるかを示したものが、カットオフ緯度と呼ばれるものです。
地磁気擾乱(Geomagnetic disturbance)
太陽面での大規模な爆発により放出された高エネルギー粒子が地球に到達した際に観測されるような顕著な地磁気擾乱を磁気嵐と呼んでいます。
地磁気の単位はnT(ナノテスラ)を用いますが、日本付近の平均的な地磁気の水平分力(H)の大きさは約3万nTで、静穏時の日変化の振幅は50nT程度ですが、磁気嵐の時は50~数百nTに達する地磁気変化(較差)が観測されることもあります。
磁気嵐は地球規模の現象ですが、観測点の緯度や経度により地磁気変化の様子も違って観測されます。中低緯度に位置する日本では、多くの磁気嵐は水平分力(H)の急増加をもって始まりますが、これを磁気嵐の急始(ssc:storm sudden commencement)といいます。このあと1時間から数時間くらいの間Hの増加した状態が続きます。この期間を初相(Initial phase)といいます。それに続いてHは急激に減少し始め、極小に達したのち回復に向かいます。この間を主相(Main phase)といい、その後の回復期を回復相(Recovery phase)或いは終相(Last phase)といいます。
このような経過をとる磁気嵐を急始磁気嵐とよんでいますが、磁気嵐の中には急始の明瞭でないものもありこれを緩始磁気嵐と呼んでいます。
放射線帯電子(Radiation belt electron)
地球磁場に捕らわれた高エネルギーの荷電粒子が集まった領域です。その領域は高度約1000kmから50000km以上にわたって広がっており、主に数100keVから数10MeVの陽子や数10keVから数MeVの電子からなります。放射線帯の高エネルギー電子は衛星機体の外壁から侵入し、衛星内部で深部帯電を引き起こす原因となることがあり、帯電が進行すると絶縁破壊による放電により周辺機器が損害を受ける危険もあります。放射線帯はバンアレン帯と呼ばれます。
バンアレン帯(Van Allen radiation belts)について
1958年に打ち上げられたアメリカ合衆国最初の人工衛星エクスプローラー1号は、搭載した計測器の観測によって、地球の磁気圏内に強い放射線帯が存在し、地球の周囲をドーナツ状に取り巻いていることを発見しました。この放射線帯は、発見者の米国の物理学者バン=アレン(J.A.Van Allen)にちなんで、バンアレン帯と呼ばれています。
バンアレン帯とは、赤道上空を中心に地球を取り巻く、放射線の強い二重のドーナツ状の領域のことです。宇宙から飛来する高エネルギーの陽子や電子が地球磁場に捕捉されてできた放射線帯で、有害な宇宙放射線を遮るバリアの役割を果たしています。
28億年から27億年前に、地球に磁場が発生し、それと併せてバンアレン帯が生み出されました。さらに大気により地球に直接降り注ぐ放射線が緩和されたことで、浅い温暖な海にも微生物が発生するようになったと考えられています。
このバンアレン帯は、陽子や電子などの荷電粒子が地球の磁場に捕捉されて生じます。陽子と電子では、その空間分布が異なっています。電子は地表面から3000kmを中心とした帯構造の内帯と、地表面から20000kmを中心とする外帯の2重構造になっており、陽子は地表面から2000kmを中心とする一つの帯構造をしています。外帯の外部境界は地表面から60000km程度の位置にあります。地表面高度で6000kmから13000kmの間の領域は、内帯と外帯の中間領域にあたり、スロットと呼ばれる高エネルギー電子が少ない領域となっています。
放射線帯中で、陽子は数百MeVほどまで、また電子は数十MeVほどまで加速されています。内帯は長期間にわたって安定して存在しますが、外帯は高速太陽風が低速太陽風を圧縮する領域や惑星間空間擾乱(ICME)などを起源とする地磁気嵐の発生で、高エネルギー粒子数が増大するなどの変化を見せます。なお、低軌道の人工衛星は内帯の内側、静止衛星の軌道(高軌道)は外帯の外側にあり、バンアレン帯の影響を受けにくい軌道を取っています。
電離圏嵐(Ionospheric storm)
電離圏の中で電子が最も多く含まれるF領域(F層)において、通常より顕著に電子密度が減少、 或いは増加する現象のことを指します。この現象は、主に磁気圏の乱れが発生した時に、 その影響が背景大気や電場の乱れなど様々な過程を経て電離圏に伝わって起こる事が知られています。この電離圏嵐には、電子密度が減少する場合の「負相嵐」と、電子密度が増加する場合の「正相嵐」があります。負相嵐は、一般的に極域の加熱により大気組成が変化し、その大気が地球全体に循環するために生じます。 一方で、正相嵐は、赤道域に侵入した電場や大気の赤道向きの風の影響で電離圏が厚くなることで起こることが多いです。それぞれに与える影響がことなり、負相嵐の発生時には、F領域の臨界周波数が小さくなるため、通常では電離圏で反射される電波が周波数によっては反射されなくなります。 正相嵐の発生時には、電離圏を通過する電波の電離圏での遅延量が増大するため、GPSなどの衛星測位の誤差が増大する可能性があります。
負相嵐が発生するタイミングは、CMEなどの太陽風じょう乱が太陽から放出されてから3~4日後くらいで、じょう乱の惑星間空間の移動や磁気圏・大気圏の応答の時間に相当します。負相嵐が発生した際には、多くの場合は日中を通して継続します。規模の大きい現象の場合には静穏な状態に戻るまでに数日を要することもあります。負相嵐の発生領域については、高緯度に始まり、中緯度まで広がることもあります。
デリンジャー現象(Dellinger Effect)
電離圏に何らかの理由で異常が発生することにより起こる通信障害です。短波障害(SWF:Short Wave Fadeout)または突発性電離層擾乱(SID:Sudden Ionospheric Disturbance)とも呼ばれます。多くは大規模な太陽フレアに伴うX線や紫外線の急増により、 高度60-90km程度のD領域(D層)が異常電離して電子密度が高くなり、通常はD領域(D層)を通過する短波帯の電波が吸収されてしまう現象です。通常のD領域(D層)は電子密度が薄いため、短波やそれより高い周波数の伝搬には影響しません。一方で、太陽X線によってD領域(D層)が異常電離し、電子密度が濃くなると、D領域(D層)の荷電粒子が短波と共振するようになります。すると、D領域(D層)では背景の中性大気の数密度が濃いため、荷電粒子と電波の振動のエネルギーは中性大気に散逸し、電波の吸収が起こります。太陽フレアの発生から電磁波が到達するまでの約8分後に発生します。強いデリンジャー現象が発生すると、短波帯の通信が全く出来なくなる通信途絶(ブラックアウト)が発生し、フレアの長さに依存しますが、8割近くが30分以内に収束します。現象が起こる領域は、太陽を向いている昼側となります。
スポラディックE層(Sporadic E layer)
スポラディックE層の発生には季節的・地域的な偏りがあり、大雑把には夏季の中緯度帯で発生する傾向があります。日本付近は比較的発生が多く、国内の観測からは5~7月にかけて最も多く発生し、1日のうちでは昼付近と夕方付近に多く発生する傾向が見られます。発生や変動要因に関して、太陽活動との結び付きは余りなく、高度100km付近における熱圏大気の流れとの関連が重要と考えられています。水平方向の広がりは数百km未満であり、影響範囲も局所的です。この現象が発生すると、通常時にはF領域(F層)でも反射できず、電離圏を透過する超短波(VHF)帯の電波をも反射するという特殊な性質があり、この反射により、見通し範囲を越えて伝搬(異常伝搬)します。スポラディックE層が発生すると、E領域の臨界周波数が通常に比べて大きく上昇することがわかっており、スポラディックE層の発生には、重要な働きをしていることがわかっています。
スポラディックE層の無線通信への影響事例
強いスポラディックE層が発生すると、通常は電離圏で反射されないVHF帯の電波が反射されて異常伝搬し、伝搬先の地域で同じ周波数帯を使用する無線通信に干渉、混信が発生することがあります。航空無線標識(VOR)や無線航法システム(ILS)で使用されるVHF帯の航空無線について、スポラディックE層による異常伝搬が別エリアの航空無線に干渉する可能性が報告されています。
日本国内では、大変遠方の放送局が受信できたり、遠方の無線局との通信ができたりするので、ラジオ放送愛好家やアマチュア無線家からは、通常不可能な遠距離に放送や通信を可能としてくれる現象として歓迎される存在でもあります。例えば関東地方で九州や沖縄のFM放送や、関西地方で中国や台湾のFM放送が突然聞こえ出し、フェーディング(受信電波の強弱変動)を伴いながら比較的短時間ではありますが受信できることがあります。
スポラディックE層の無線通信への影響事例として、航空無線標識(VOR)や無線航法システム(ILS)で使用されるVHF帯の航空無線について、スポラディックE層による異常伝搬が別エリアの航空無線に干渉する可能性が報告されています。
通常は受信できない遠方のVHF放送やVHF通信が、発生したスポラディックE層で反射して、伝搬先の地域で同じ周波数帯を使用する、FMラジオ放送や、テレビ放送、無線通信に混信することで音声や画像の乱れが生じたり、受信不良・通信不良になることがあります。
この現象が発生すると、通常時には電離圏を透過し、見通しの範囲でしか通信できないとされる、超短波(VHF)帯の電波が、電離圏の反射により、見通し範囲を越えて伝搬します(異常伝搬)。
規則的に形成・変動する通常のE層と異なり、非定常的に夏季の中緯度帯で発生する傾向があり、春から夏にかけて昼や夕方に高度100~120 km付近に散発的(スポラディック)に電子密度の濃い層が発生する現象です。水平方向の広がりは数百km未満であり、影響範囲も局所的です。スポラディックE層の発生や変動要因に関して、太陽活動との結び付きは余りなく、背景にある熱圏大気の流れとの関連が重要と考えられています。
宇宙天気と太陽現象、電磁波に関連するもの
強いスポラディックE層が発生すると、通常は電離圏で反射されないVHF帯の電波が反射されて異常伝搬し、伝搬先の地域で同じ周波数帯を使用する無線通信に干渉、混信が発生することがあります。
航空無線標識(VOR)や無線航法システム(ILS)で使用されるVHF帯の航空無線について、スポラディックE層による異常伝搬が別エリアの航空無線に干渉する可能性が報告されています。日本国内では、大変遠方の放送局が受信できたり、遠方の無線局との通信ができたりするので、ラジオ放送愛好家やアマチュア無線家からは、通常不可能な遠距離に放送や通信を可能としてくれる現象として歓迎される存在でもあります。例えば関東地方で九州や沖縄のFM放送や、関西地方で中国や台湾のFM放送が突然聞こえ出し、フェーディング(受信電波の強弱変動)を伴いながら比較的短時間ではありますが受信できることがあります。
スポラディックE層の無線通信への影響事例として、航空無線標識(VOR)や無線航法システム(ILS)で使用されるVHF帯の航空無線について、スポラディックE層による異常伝搬が別エリアの航空無線に干渉する可能性が報告されています。
通常は受信できない遠方のVHF放送やVHF通信が、発生したスポラディックE層で反射して、伝搬先の地域で同じ周波数帯を使用する、FMラジオ放送や、テレビ放送、無線通信に混信することで音声や画像の乱れが生じたり、受信不良・通信不良になることがあります。
この現象が発生すると、通常時には電離圏を透過し、見通しの範囲でしか通信できないとされる、超短波(VHF)帯の電波が、電離圏の反射により、見通し範囲を越えて伝搬します(異常伝搬)。
規則的に形成・変動する通常のE層と異なり、非定常的に夏季の中緯度帯で発生する傾向があり、春から夏にかけて昼や夕方に高度100~120 km付近に散発的(スポラディック)に電子密度の濃い層が発生する現象です。水平方向の広がりは数百km未満であり、影響範囲も局所的です。スポラディックE層の発生や変動要因に関して、太陽活動との結び付きは余りなく、背景にある熱圏大気の流れとの関連が重要と考えられています。
宇宙天気と太陽現象、電磁波に関連するもの
電離圏(ironosphere)
2.1 電離圏と太陽活動
電離圏(ionosphere)とは、地球大気の上層部(高度約60km~1000km)において、太陽放射や宇宙線などのエネルギーにより、気体を構成する原子や分子がイオン化した状態にある層のことです。
この電離圏の高度範囲は、地球の半径約6,400kmに対して0.63.9%、約1/2001/25の範囲に相当します。よりよく知られているオゾン層は高度20~30km程度にありますので、電離圏はオゾン層よりもさらに高い高度に位置しています。
電離圏を形成する大気は、この高度になると水蒸気はほとんどなく、主に窒素と酸素の原子や分子で構成されています。
この領域では、主に太陽から到来する紫外線やX線により、窒素や酸素の原子が電子を放出し、プラスイオンと自由電子が生成されています。この「光電離」が繰り返し起こることで、電子密度が高い状態が維持されています。
電離の度合いや高度によって、下層からD領域(60km90km)、E領域(100km130km)、F領域(150km以上)の3つの領域に大別されます。F領域はさらにF1層(150km220km)とF2層(220km800km)に分かれます。
この領域は歴史的には「電離層」と呼ばれていましたが、近年では「電離圏」と呼ぶのが一般的になっています。「層」から「圏」への名称変更は、この領域が単一層ではなく高度によって複数の層に分かれている「圏(エリア)」であることを反映したものです。
電離圏の状態は時間と場所によって大きな変動があり、日周変動、季節変動、太陽活動周期の長期変動などの規則的な変化に加え、太陽フレアの影響などで不規則な変動も起こります。
D領域(D層): 高度60km - 90km、厚さ約30km
E領域(E層): 高度90km - 150km、厚さ約60km
F1領域(F1層): 高度150km - 220km、厚さ約70km
F2領域(F2層): 高度約220km - 800km、厚さ 580km
D領域(D層)
高度約60~90キロメートルの領域です。主として、太陽ライマン・アルファ線によって、大気中の微量気体成分である一酸化窒素が電離してできます。電子密度は1立方メートル当たり10億個から100億個ほどです。太陽光の直射がなくなる夜間は、密度は1億から10億ほどに減ります。一次生成イオンである一酸化窒素イオンは、急速に水の付加した水素イオンに変換されるので、後者のイオンが主成分となっています。この領域は気圧が比較的高いので、自由電子と大気分子との衝突頻度が高く、そのためこの領域を通過する電磁波は減衰を受けます。したがって、短波通信に対しては、電波の反射層としてよりむしろ吸収層として働きます。
E領域(E層)
高度約90~150キロメートルの領域です。ライマン・ベータ線と軟X線によって酸素分子や窒素分子が電離によって生成されます。電子密度は1立方メートル当たり1兆個程度ですが、太陽光の直射がない夜間は10億個ほどに減ります。イオンの交換反応が活発に起こっているため、一次生成イオンは変換されて、主たるイオン成分は一酸化窒素イオンと酸素分子イオンです。夜間ときおり発生するスポラディックE層は、寿命の長い金属イオンが、中性大気の風による鉛直収束作用によって、高度幅数キロメートルの薄い層に集積したものです。金属イオンは流星が起源であろうと考えられています。このE領域に流れる電流は地上の地磁気変化を引き起こし、その存在は古くから観測されています。
F領域(F層)
高度約150キロメートルより上の領域です。太陽極紫外線によって主として酸素原子が電離してできたもので、イオンの主成分は酸素原子イオンです。電子密度は1立方メートル当たり1000億個から1兆個程度で、高度200~300キロメートルの間で最大となります。夜間の密度減少は他の領域に比べて少なく、短波の長距離無線通信はこの領域の伝搬を利用します。F領域の電子密度は太陽活動サイクルで大きく変わり、また磁気嵐に並行して起こる電離圏嵐のように、一時的な擾乱によっても大きな変動が生じます。
電離圏の基本的な物理量の一つとして自由電子の密度があります。電離圏に入射した電磁波が反射される場合、入射する電磁波の周波数と電子密度との間には一定の関係があるので、電子密度は実用上も重要な意味をもっています。電離圏は電子密度の高度分布の形と密度の大きさから、D領域(D層)、E領域(E層)、F領域(F層)に分けられます。これらの領域の生成機構には違いがあって、構成するイオンの成分もまったく異なり、それぞれ独自のふるまいをします。
電離圏は高い電子密度のため、電波を反射する性質があり、この性質を利用して、特定の周波数帯の電波を所定の層で反射させることで長距離通信が可能になっています。
しかし、電波の周波数によって反射される層や伝播特性が大きく異なります。
- 超長波(30kHz未満)はほとんど影響を受けません。
- 長波(LF:30kHz~300kHz)は昼間D層、夜間E層で反射。
- 中波(MF:300kHz~3MHz)は昼間D層で減衰が大きく、夜間E層で遠距離伝搬。
- 短波(HF:3MHz~30MHz)はD層を通過してF層で主に反射。
- VHF(30MHz~300MHz)、UHF(300MHz~3GHz)以上は電離圏を通過してしまい、地上では可視距離程度。
一方、電離圏を通過する際の伝播経路の変化や遅延は測位システムにも影響し、GPSでは数メートルの測位誤差の原因となっています。
電離圏を形成する大気は、高度が上がるにつれて極端に密度が薄くなり、450kmでは地表の1兆分の1になります。80km以上では気温が上昇し始め、400km以上で1000℃を超えますが、低密度のためエネルギー値が小さく実際の温度感は低いままです。この領域では窒素や酸素の原子と分子が入れ替わり続けています。
宇宙から到来する高エネルギー紫外線やX線により、これらの原子がイオン化し、プラスイオンと自由電子が生成されています。このように形成された電離の効果で、電波は反射、屈折、散乱、減衰といった波動現象を示します。
ラジオ放送や無線通信技術は、このような電離圏での電波の振る舞いを利用し、用途に合わせて最適な周波数帯の電波を選び、適切な高度の層で反射させることで遠距離通信を実現しています。電離圏は電波伝搬に多大な影響を与えますが、その特性を上手く活用することで通信に重要な役割を果たしているのです。
電波の特徴についても説明ます。
超長波(VLF:Very Low Frequency)
超長波は、10~100kmの非常に長い波長を持ち、地表面に沿って伝わり低い山をも越えることができます。また、水中でも伝わるため、海底探査や潜水艦との通信にも応用できます。
長波(LF:Low Frequency)
長波の波長は、1~10kmで、非常に遠くまで伝わることができます。1930年頃まで電信用として利用されていましたが、大規模なアンテナと送信設備が必要という欠点と、短波通信の発展により、あまり用いられなくなっています。
長波の一部は、ヨーロッパやアフリカ等でラジオ放送に使われているほか、日本では船舶や航空機の航行用ビーコン及び電波時計などのための標準周波数局に利用されています。
中波(MF:Medium Frequency)
中波の波長は、100~1000mで、約100kmの高度に形成される電離層のE層に反射して伝わることができます。
電波の伝わり方が安定していて遠距離まで届くことから、主にAMラジオ放送用として利用されています。送信機や送信アンテナは大規模なものが必要ですが、受信機は簡単なもので済む利点があります。
短波(HF:High Frequency)
短波の波長は、10~100mで、約200~400kmの高度に形成される電離層のF層に反射して、地表との反射を繰り返しながら地球の裏側まで伝わっていくことができます。
長距離の通信が簡単に行えることから、現在でも、遠洋の船舶通信、国際線航空機用の通信、国際放送及びアマチュア無線に広く利用されています。
超短波(VHF:Very High Frequency)
超短波の波長は、1~10mで、直進性があり、電離層で反射しにくい性質もあります、山や建物の陰にもある程度回り込んで伝わります。
短波に比べて多くの情報を伝えることが出来るため、FMラジオ放送用や多種多様な業務用移動通信に幅広く利用されています。
極超短波(UHF:Ultra(ウルトラ) High Frequency)
極超短波の波長は、10cm~1mで、超短波に比べて直進性が更に強くなりますが、多少の山や建物の陰には回り込んで伝わります。
伝送できる情報量が大きく、小型のアンテナと送受信設備で通信できることから、携帯電話や業務用無線を初めとした多種多様な移動通信システムを中心に、地上デジタルTV、空港監視レーダーや電子タグ、電子レンジ等に幅広く利用されています。
電離層の歴史
1901年にマルコーニが大西洋横断無線通信実験に成功したことは、当時の電磁波の研究者や技術者を大いに刺激しました。さらに遠くに電波を飛ばそうと、短波を使っていたアマチュア無線家によって予想をはるかに上回る長距離の異常伝搬現象が発見されました。どう計算しても丸い地球の4000km彼方まで回折効果では電波が届ず、このような長距離の伝搬は地上の伝搬理論だけでは説明がつきません。
この疑問を解決する論文が、1902年にほとんど同時期に、アメリカのケネリー(A.E. Kennelly)とイギリスのヘビサイド(O. Heaviside)によってそれぞれ発表されました。彼らは共に地球大気の上層部には導電層があることを仮定し、それが電波を曲げる(反射する)と主張しました。動機は違いますが、その24年前の1878年にスチュワートは、地磁気の日変化を説明するためには地球の上層に電気を伝える層があるはずだという論文を発表していました。このように現在わかっている電離層のような働きをする上空に電磁波を反射する何か鏡のようなものが存在すると予想されました。現在は、それが電離層であることが確認されています。この電離層は存在を予見していたKennelly & Heavisideの頭文字からK-H層(Kennelly & Heaviside層)と名前が付けられています。
1925年に、アップルトン教授とバーネット(E.V. Appleton and M.A.F. Barnett)は論文の中で、この予見されていた層が実在することを実証しました。アップルトン教授は学生と共に電波を上に向けて発射すると、それが反射して戻ってくること、また、離れた地点で受信して、地表を伝わってくる波と上空から反射してくる波との位相差から、上空の導電層の高さが分かることも実験的に示しました。周波数を変化させて電波を送信し、電離層反射波と送信波の干渉パターンを調べることで、電離層の高度、反射波の強度や偏波を明らかにしました。
電離層 A層、B層、C層はどこだ
電離層の命名に関してはアップルトン教授ご自身が詳細に説明されています。1943年2月、デリンジャー現象の発見で知られるアメリカの科学者デリンジャー教授から、アップルトン教授に宛てて「なぜあなたは電離層の名前をD層、E層、F層のように途中から命名したのでしょうか?」と質問の手紙が届いたそうです。
この質問に対し、アップルトン教授はこう答えたと伝えられています。「理由は大変簡単です。私は中波を使ってケネリー・ヘビサイド層(電離層のこと)からの反射を得ることに成功しました。それを論文に発表する際、反射波の電界ベクトルを表すのに「E」という記号を用いたのです。(電場、電界などに関する記号を用いる際は、electricの頭文字「E」を使うことが多いためではないでしょうか)。その後1925年の冬、少し高い層からも反射が返ってくることを発見し、その電界成分を表すのに「F」という記号を用いました。ほとんど同じ時期に非常に低い高度からも反射があることが分かり、その電界成分を「D」と表すことにしたのです。」
つまり、アップルトン教授は論文中の記号をそのまま電離層の名前に用いただけで、当初からA層やB層、C層を残す意図はなかったということです。
しかし、「将来これらの層の上下に新しい層が発見される可能性がありますから、A、B、Cと使わなかったことは良かったと思います」とも述べられています。後にC層やG層らしき現象が観測されたので、 確かにその通りで、結果的に上下にアルファベットが残ったことは連続した層の順番を示すには良かったと言えます。
C層については1930年代、中波帯電波が海面付近で反射しているように見えた現象がありましたが、これは対流圏内の電波屈折と海面散乱の組合せによる現象で、実在する層ではないと判明しました。また、F層の上部で一時的に反射が観測され、G層の存在が示唆されましたが、これも一過性の小さな領域に過ぎず、連続した層とは見なせないことが分かりました。
このように一時期新しい層が見つかるかに思えましたが、結局のところ電離層としての実体は認められませんでした。その後の研究でも新たな層の実在が認められなかったことから、電離層の構造は長年の研究を経て、現在の3層構造が確立されることになったのです。
もし当初からアルファベット順に名付けていれば、最初に見つかったE層がA層、次のF層がB層となると、最後に見つかった一番下のD層の名前が。。。浮いてしまったことでしょう。
周波数が一定なら、電子密度が高いほど減衰は大きく、また、電子密度が一定なら、通過する周波数が低いほど減衰が大きくなります。
電離圏と電波の伝搬
電離圏は荷電粒子の集まりですから、そこに入射する電波と相互作用して、電波の屈折率を変えてしまいます。その結果として、電波の反射や遅延が引き起こされます。この作用は電子密度や電波の周波数によって変わってきます。電子密度が高いほど、より高い周波数の電波を反射するという性質があります。
ですので、D領域(D層)からF領域(F層)のピーク付近にかけては、高度が上がるほど電子密度が高くなり、より高い周波数の電波を反射するようになるわけです。一方で、電波の周波数がF領域(F層)ピークで反射できる限界を超えると、その電波は電離圏を透過してしまいます。この場合でも、電離圏を通過する際には電子密度に応じて電波の遅延が生じてしまいます。
電波の周波数帯ごとに異なる、伝搬の仕方の特徴を活かして、無線通信の用途や利用の仕方を工夫しています。短波(HF)以下の低い周波数帯は電離圏で反射されるので、主に見通し距離を超えた長距離無線通信に使われています。一方で超短波(VHF)帯以上は電離圏で反射せず、透過するため、人工衛星通信や近距離無線通信に利用されているということです。
臨界周波数(critical frequency)
電離層には、ある周波数以下では電離層によって反射され、その周波数を超えると電離層を貫通するという性質があります。電波を電離層に垂直に打ち上げたときに反射する限界(最高)の周波数のことを臨界周波数と言います。グラフや計算式で表す場合「fc」と表記されます。
電離層を通る電波はD層を突き抜けても、その上のE層やF層で反射されることもあるので、臨界周波数は各層ごとに表されます。通常の臨界周波数はE層で3MHz、F層で8MHzくらいですが、太陽の黒点数が上昇するとさらに高くなります。つまり、電離層への太陽から受ける影響(電離層の電子密度)によって変化し、時間帯、大気条件、アンテナからの電波の入射角度によっても変化します。臨界周波数は電離層に直角に入射した場合の数値であり、電離層の入射角が浅くなるほど反射する周波数は高くなります。
この臨界周波数fc は、電離層の(最高)電子密度によって導き出すことが出来ます。その電子密度の最高値をNe(1立方メートルあたりの電子の個数:[個/m3])とすると、fcは以下のように近似されます。
fc≒9√Ne [Hz]
このように、電子密度が高い(Neが大きい)ほど、臨界周波数 fc が高くなります。
電離圏観測
電離圏観測
実際に臨界周波数などの電離圏観測をしていますので、このような実測値を知ることが出来ます。
リアルタイムデータ | NICTイオノゾンデ電離圏観測
https://wdc.nict.go.jp/Ionosphere/realtime/
臨界周波数など電離圏概況の速報
以下のような電離層を利用した通信の基本的な知識です。電離層は自然現象ですので完全に予測することは難しいものの、こうした理論と観測データを上手く活用することで、効率的な無線通信が実現できるのです。
イオノゾンデによる電離層観測
イオノゾンデによる電離圏観測は、短波帯電波を用いた電離圏の観測手法の一つで、古くから世界中で行われてきています。
日本国内には4か所の観測点(稚内:北海道、国分寺:東京都、山川:鹿児島県、大宜味:沖縄県)がございますが、関西地方など近くに観測点がない地域では、イオノグラムで捉えきれない伝搬もあるかもしれません。
日本国内には4か所の観測点(稚内:北海道、国分寺:東京都、山川:鹿児島県、大宜味:沖縄県)がございますが、関西地方など近くに観測点がない地域では、イオノグラムで捉えきれない伝搬もあるかもしれません。
イオノゾンデ観測の仕組み
イオノゾンデ観測では、短波帯電波の周波数を連続して変えながら、上空(垂直上方)に送信します。発射された電波は、電離圏のプラズマ密度に応じて反射され、地上で受信することが出来ます。電波を送信してから受信されるまでの時間から反射波の見かけ高さを得ます。 イオノゾンデによって取得される電離層の一次観測データをイオノグラムと呼びます。イオノグラムは、横軸が周波数(1~30MHz)、縦軸が見かけの電離層高度(0~1000km)、色が反射波の相対的な強度(0~255)を表しています。観測時「どの周波数の電波がどの高さに存在した電離圏によってどの程度の強さで反射されたか」を知ることが出来ます。同時に、臨界周波数を知ることが出来ますので、「どの周波数の電波を通信に利用できるのか?」も知ることもできます。
送信点と受信点が同一の観測を「垂直観測」、送信点とは別の場所で受信を行う観測を「斜入射観測」と呼びます。斜入射観測では、送受信点の間の電離圏の状態を観測しています。
情報通信研究機構(NICT)宇宙環境研究室のイオノゾンデ電離圏観測のWEBサイトです。毎時5分おきにイオノゾンデによる電離層観測し、観測結果であるイオノグラムを公開されています。日本国内の4か所の観測所の結果を一つの画面で確認することが出来ます。
https://wdc.nict.go.jp/Ionosphere/archive/ionog_viewer/送信点と受信点が同一の観測を「垂直観測」、送信点とは別の場所で受信を行う観測を「斜入射観測」と呼びます。斜入射観測では、送受信点の間の電離圏の状態を観測しています。
イオノグラムの見方
イオノグラムにすべてのトレースが現れたとしたときの代表的なパターンを描いたものです。実際のイオノグラムにはこれらのパターンのうちのいくつかがその時々の条件(季節や時間)によって様々な形に現れます。 「fo」で始まる記号は、それぞれあとに続く層の臨界周波数(その層の一番高い所)を示し、「h'」で始まる記号は、はそれぞれの層の見掛けの高さを示しています。 周波数を示すパラメータにはそれぞれO (正常波成分)とX (異常波成分)がありますが、イオノグラムに常に両方が現れるわけではないので注意が必要です。O成分とX成分は常に国分寺、沖縄で0.6MHz、稚内で0.7MHz離れていることがわかっています。(この値は電子ジャイロ周波数の半分に相当します)情報通信研究機構(NICT)宇宙環境研究室のイオノゾンデ電離圏観測のWEBサイトです。毎時5分おきにイオノゾンデによる電離層観測し、観測結果であるイオノグラムを公開されています。日本国内の4か所の観測所の結果を一つの画面で確認することが出来ます。
リアルタイムデータ | NICTイオノゾンデ電離圏観測
https://wdc.nict.go.jp/Ionosphere/realtime/
NICT Ionospheric alert
https://wdc.nict.go.jp/Ionosphere/realtime/ISDJ/ionospheric-alert.html
https://wdc.nict.go.jp/Ionosphere/realtime/ISDJ/ionospheric-alert.html
最高使用周波数 (MUF:Maximum Usable Frequency)
短波帯の通信は、通常、電離層伝搬を前提として行われています。
電離層による反射によって地球上の特定の2地点間において、反射される周波数には限界があり、伝送可能な上限(最高)となる無線周波数のことを最高使用周波数 (MUF)と言います。送信機の出力には依存しません。特に短波帯の通信の際に重要な指標になります。 この上限を超える周波数の電波は電離層で反射されず、宇宙空間に向かって透過してしまいます。
電離層による反射によって地球上の特定の2地点間において、反射される周波数には限界があり、伝送可能な上限(最高)となる無線周波数のことを最高使用周波数 (MUF)と言います。送信機の出力には依存しません。特に短波帯の通信の際に重要な指標になります。 この上限を超える周波数の電波は電離層で反射されず、宇宙空間に向かって透過してしまいます。
電離層に対して電波が斜め(浅い角度)で入射すると臨界周波数よりも高い周波数でも反射します。その入射角度が浅ければ浅いほど高い周波数でも反射しやすくなります。
臨界周波数、電離層の入射角度がわかれば、最高使用周波数を計算することができます。
臨界周波数、電離層の入射角度がわかれば、最高使用周波数を計算することができます。
MUF = 臨界周波数 / cosθ
ここで、臨界周波数は真垂直入射時に反射される最高の周波数、θは入射角度です。したがって、真上に打て上げる場合θは0になりますので(cos0)=1
MUF = 臨界周波数 / 1 → MUF = 臨界周波数 ということになります。
MUF = 臨界周波数 / 1 → MUF = 臨界周波数 ということになります。
通常の通信は送信点と受信点が離れていますので、通信を行う際には、一か所の送受信店で観測された垂直観測の臨界周波数が、参考にならないと言えます。離れた2点間での通信の場合、「斜入射観測」を行えればよいのでしょうが、任意の2点間では難しいと思います。このようなときには、臨界周波数と2点間の諸元から計算で導き出すことが出ます。
この場合、送信点から送信された電波は電離層に斜めに向かって行き、反射されて受信点に届くことになります。ここでは、電離層も地球も平面だと単純化したうえで、電離層の面の法線(電離層の面に垂直な直線)と電波の進行方向がなす角をθとします。
最高使用可能周波数(MUF)をfMUとすると 臨界周波数fcと電離層への入射角θは、以下のように表すことが出来ます。
fMU = fc×secθ
secθは、cosθの逆数、つまり1/cosθですから、
垂直入射の場合は、すなわちθ=0[rad]の場合fMU=fc、
θ=45°の場合は θ=π/4[rad]で fMU=(√2)fc となります。
垂直入射の場合は、すなわちθ=0[rad]の場合fMU=fc、
θ=45°の場合は θ=π/4[rad]で fMU=(√2)fc となります。
この関係性を言葉で表せば「MUFは臨界周波数に比例し、入射角が浅い(=θが大きい)ほど高くなる」という事になります。
つまり、角度が浅くなるほど、同じ臨界周波数の電離層でも高い周波数を反射できることになります。
fcより高い周波数を電離層に対して様々なθで発射すると、θがある角度より小さくなると反射せず宇宙空間に向かって透過してしまいます。
最低使用周波数 (LUF:Lowest Usable Frequency)
短波帯の無線通信では、電離層による電波の反射を利用しています。しかし、電離層を通過する際、電波は電離層中の電子との衝突によりエネルギーを失い、減衰が起こります。この減衰は、電波の周波数が低いほど大きくなる傾向にあります。
そのため、特定の2地点間で電離層反射波による通信を行う際、使用できる周波数には下限があります。この下限の周波数を「最低使用周波数(Lowest Usable Frequency: LUF)」と呼びます。LUFよりも低い周波数の電波を使用すると、電離層通過時の減衰が大きすぎて、反射後に十分な強度が得られなくなってしまいます。
実際、短波の電波は電離層に向かう際、まずD層とE層を通過します。この時、D層やE層通過時の減衰が、LUFに大きな影響を与えます。周波数が低ければ低いほど、この減衰量が大きくなり、最終的にF層で反射した電波の強度が弱くなってしまいます。
一方で、LUFよりも高い周波数を使えば、減衰は抑えられるため、最高使用周波数(MUF)に達するまでは良好な通信が可能になります。つまり、短波帯通信では、最高使用周波数とともに最低使用周波数の範囲内で、適切な周波数を選ぶ必要があります。
この最低使用周波数は、通信を行う2地点間の距離や時間帯、季節などによっても変動します。電離層の状態が変われば、電波の減衰具合も変わるためです。実際の運用では、所定の信号対雑音比を確保できる最低限の受信電界強度が得られる周波数をLUFとして使用されます。
LUFを下回る低い周波数では、電離層通過時の減衰が大きすぎて所定の電界強度が得られません。一方で高い周波数を使えば、MUFに達するまでは良好な結果が得られます。このように、短波帯通信ではLUFとMUFの範囲内で、適切な周波数を選ぶ必要があります。
最適使用周波数 (FOT:Frequency of Optimum Traffic)
MUFとLUFの間で、地球上の2地点間の電波の電離層反射における最も通信に適した周波数のことを表します。
電離層の電子密度が、実際には電子密度は場所による濃淡、(太陽の動きとは無関係な)時間的な揺らぎがあります。
MUFやLUFの限度一杯の周波数で通信していると、電界強度が不安定になり通信に支障をきたすことがあります。このため、安定性のマージンをとって、最適な運用周波数としてMUFの85%の周波数をFOTとして定義しています。
通常、最大使用可能周波数(MUF)の値よりもわずかに低くなります。使用可能な周波数を予測する際、 MUFの85%の周波数が最適とされています。FOTを用いることによって、電離層擾乱時を除いた全時間の90%は大体有効な通信ができるとされています。E層伝搬の場合には、MUFをそのままFOTとしています。
電子密度と通過による減衰(第一種減衰)の関係
電波が電離層を通過するときに受ける減衰を「第一種減衰」と言います。短波帯の場合、D層とE層を通過するときの減衰です。周波数が一定なら、電子密度が高いほど減衰は大きく、また、電子密度が一定なら、通過する周波数が低いほど減衰が大きくなります。
電子密度による依存性よりも、周波数依存性の方が大きいということです。
身近にある具体的な現象としては、昼間は地表波しか聞こえない中波放送(AM放送)が夜になると遠方の放送局まで聞こえてくると思います。この現象は、夜間、D層が消滅して第一種減衰がなくなり、E層の反射で見通し距離よりも遠方に伝播する電離層が起因する現象です。
電子密度と反射による減衰(第二種減衰)の関係
電離層に反射される時に受ける減衰を「第二種減衰」といいます。
短波帯の場合はF層で反射するときに受ける減衰で、周波数が一定なら、電子密度が高いほど大きく、電子密度が一定なら、周波数が高いほど大きくなります。これは、周波数が高いほど、電離層の中の上層で反射が起こり、電離層の中を通る経路がくなり、より減衰を受けるとされています。
短波帯の場合はF層で反射するときに受ける減衰で、周波数が一定なら、電子密度が高いほど大きく、電子密度が一定なら、周波数が高いほど大きくなります。これは、周波数が高いほど、電離層の中の上層で反射が起こり、電離層の中を通る経路がくなり、より減衰を受けるとされています。
周波数を上げ過ぎると、反射せず通過してしまうので、通信が不能になってしまいます。ある2点間で、突き抜けが起こらず使用可能な最高周波数をMUF(Maximum Usable Frequency)といいます。第二種減衰の周波数に対する依存性は第一種減衰のように単純ではなく、MUFの半分程度以下の時はほとんど減衰がなく、MUFに近くなると急激に増大する、という特性を持っています。
プラズマバブル(Equatorial plasma bubble)
プラズマバブルが影響する領域や時期
発生頻度は年間を通して場所によって異なりますが、北オーストラリアでは、2月から4月と8月から10月が最も発生しやすく、約100kmくらいの大きさのプラズマバブルが毎晩、予想
されます。夜になり太陽による電離が止まると形成されます。イオンが再結合し、密度の低い層ができます。この層が上層の電離層より対流により上昇し、プラズマバブルが生じます。バブルの端は不規則で乱流状態になります。磁気赤道面で発達したプラズマバブルの不規則構造は、地球磁力線に沿って南北の低緯度地域に投影されます。このため、プラズマバブルが磁気赤道で高い高度に発達すると、緯度方向にも範囲が拡大し、日本の南部にも到達します。日本南部でのプラズマバブルの発生を調べた例によると、太陽活動が活発なほどプラズマバブルの発生頻度が高く、また1年の中では春分と秋分で発生頻度が多いとのことです。多い時期には、沖縄で一月のうち40%以上の日でプラズマバブルが観測されています。また、プラズマバブルの継続時間は大半が1時間以内ですが、まれに4時間以上続く場合もあります。
プラズマバブルの無線通信への影響事例として、衛星通信回線で使われるLバンド(1.5 GHz)への影響が報告されています。太陽活動極大期に一月の30%の日において、プラズマバブルによる20dB以上のシンチレーションが観測されているそうです。
プラズマバブルの内部や周辺はプラズマ密度の変化が大きく、その付近を通過する人工衛星から地上に信号を伝える極超短波(UHF)帯の電波に対して位相や振幅の乱れ(シンチレーション)を引き起こしたり、衛星測位や衛星通信の電波伝播にさまざまな遅延を引き起こすことで影響を与え、衛星測位誤差の増大(GPSの性能を低下)や衛星通信の品質低下の原因となります。ひどい時には衛星電波を受信できなくなる場合もあり、 航空機や船舶等の運用に深刻な影響を及ぼします。
雑音増加異常伝搬シンチレーション太陽電波バーストは、太陽フレアやCMEの発生に伴って、太陽から放射される電波の強度が短時間に強まる現象です。その周波数はMHz帯の短波から10 GHz帯のマイクロ波に及び、携帯電話回線や測位衛星と受信機間の通信など様々な無線通信システムに雑音として影響し得ます。
極冠吸収の場合は大抵、太陽フレアが起きてから3~20時間後に発生し、その継続時間は数時間から4日間程度に及ぶものがあります。現象が起きる領域は、地球の緯度55度付近より高緯度側です。極冠吸収が影響した実例として、極域を通って運航している航空機が、極冠吸収の発生時に通信を確保するため航路を変更したことなどがあります。
太陽電波バーストの携帯電話回線への影響を調べた研究によると、電波バーストによって支障が生じる可能性があるのは、周波数が2.6 GHz未満または10 GHz以上であって、更に基地局が日出または日没の時間帯にある場合とされています。そのような条件下で電波バーストが発生すると、数分から1時間程度にわたって影響があり得ます。太陽電波観測のデータベースから統計を取ると、雑音が通常の2倍以上になるような規模の電波バーストは、太陽電波フラックス(単位面積・時間に届く太陽電波の放射エネルギー流束)が103 sfu以上(sfuは太陽フラックス単位[solar flux unit]を指し、 1 SFU = 10-22 W・ m-2・Hz-1と定義されます)
発生頻度は年間を通して場所によって異なりますが、北オーストラリアでは、2月から4月と8月から10月が最も発生しやすく、約100kmくらいの大きさのプラズマバブルが毎晩、予想
されます。夜になり太陽による電離が止まると形成されます。イオンが再結合し、密度の低い層ができます。この層が上層の電離層より対流により上昇し、プラズマバブルが生じます。バブルの端は不規則で乱流状態になります。磁気赤道面で発達したプラズマバブルの不規則構造は、地球磁力線に沿って南北の低緯度地域に投影されます。このため、プラズマバブルが磁気赤道で高い高度に発達すると、緯度方向にも範囲が拡大し、日本の南部にも到達します。日本南部でのプラズマバブルの発生を調べた例によると、太陽活動が活発なほどプラズマバブルの発生頻度が高く、また1年の中では春分と秋分で発生頻度が多いとのことです。多い時期には、沖縄で一月のうち40%以上の日でプラズマバブルが観測されています。また、プラズマバブルの継続時間は大半が1時間以内ですが、まれに4時間以上続く場合もあります。
プラズマバブルの無線通信への影響事例として、衛星通信回線で使われるLバンド(1.5 GHz)への影響が報告されています。太陽活動極大期に一月の30%の日において、プラズマバブルによる20dB以上のシンチレーションが観測されているそうです。
プラズマバブルの内部や周辺はプラズマ密度の変化が大きく、その付近を通過する人工衛星から地上に信号を伝える極超短波(UHF)帯の電波に対して位相や振幅の乱れ(シンチレーション)を引き起こしたり、衛星測位や衛星通信の電波伝播にさまざまな遅延を引き起こすことで影響を与え、衛星測位誤差の増大(GPSの性能を低下)や衛星通信の品質低下の原因となります。ひどい時には衛星電波を受信できなくなる場合もあり、 航空機や船舶等の運用に深刻な影響を及ぼします。
極冠吸収 (PCA:polar-cap absorption)
極冠吸収は、太陽フレアに伴う高エネルギー粒子が地球の磁力線に沿って極域の電離圏に降り込むことにより発生するものです。この現象もデリンジャー現象と同様に、D層の異常電離を引き起こし、主に短波帯の電波の吸収が起きます。雑音増加異常伝搬シンチレーション太陽電波バーストは、太陽フレアやCMEの発生に伴って、太陽から放射される電波の強度が短時間に強まる現象です。その周波数はMHz帯の短波から10 GHz帯のマイクロ波に及び、携帯電話回線や測位衛星と受信機間の通信など様々な無線通信システムに雑音として影響し得ます。
極冠吸収の場合は大抵、太陽フレアが起きてから3~20時間後に発生し、その継続時間は数時間から4日間程度に及ぶものがあります。現象が起きる領域は、地球の緯度55度付近より高緯度側です。極冠吸収が影響した実例として、極域を通って運航している航空機が、極冠吸収の発生時に通信を確保するため航路を変更したことなどがあります。
太陽電波バースト (solar radio burst)
太陽電波バーストは、太陽フレアやCMEの発生に伴って、太陽から放射される電波の強度が短時間に強まる現象です。その周波数はMHz帯の短波から10 GHz帯のマイクロ波に及び、携帯電話回線や測位衛星と受信機間の通信など様々な無線通信システムに雑音として影響し得ます。太陽電波バーストの携帯電話回線への影響を調べた研究によると、電波バーストによって支障が生じる可能性があるのは、周波数が2.6 GHz未満または10 GHz以上であって、更に基地局が日出または日没の時間帯にある場合とされています。そのような条件下で電波バーストが発生すると、数分から1時間程度にわたって影響があり得ます。太陽電波観測のデータベースから統計を取ると、雑音が通常の2倍以上になるような規模の電波バーストは、太陽電波フラックス(単位面積・時間に届く太陽電波の放射エネルギー流束)が103 sfu以上(sfuは太陽フラックス単位[solar flux unit]を指し、 1 SFU = 10-22 W・ m-2・Hz-1と定義されます)
となる場合に相当します。そのような事象は太陽活動の極大期及び極小期に、地球全体でそれぞれ3.5日に1回及び18.5日に1回の頻度で発生しています。基地局辺りでは影響時間帯(日出・日没)を考慮して、それぞれ42日に1回、222日に1回の頻度と見積もられます。
太陽電波バーストの測位衛星-受信機間の通信への影響については、搬送波対雑音比(CN比)の減少が報告されています。
2006年12月6日に発生したX6.5フレアに伴う電波バーストでは、GPS(Global Positioning System)のL1信号(1.575 GHz)に近い1.4 GHzの周波数で106 sfuに達する非常に強力な電波バーストを観測し、これによりGPS受信機ではL1信号の搬送波対雑音比が最大17 dB減少しています。また、2011年9月24日に発生したM7.1クラスの太陽フレアでも、1.4 GHzにて1.1×105 sfuの電波バーストが発生し、GPS受信機のL1信号で11 dBの減少が観測されました。このような搬送波対雑音比の減少が起きると、日中の広い範囲で測位に必要となる衛星数を捕捉できない状態につながります。
2006年12月6日に発生したX6.5フレアに伴う電波バーストでは、GPS(Global Positioning System)のL1信号(1.575 GHz)に近い1.4 GHzの周波数で106 sfuに達する非常に強力な電波バーストを観測し、これによりGPS受信機ではL1信号の搬送波対雑音比が最大17 dB減少しています。また、2011年9月24日に発生したM7.1クラスの太陽フレアでも、1.4 GHzにて1.1×105 sfuの電波バーストが発生し、GPS受信機のL1信号で11 dBの減少が観測されました。このような搬送波対雑音比の減少が起きると、日中の広い範囲で測位に必要となる衛星数を捕捉できない状態につながります。
宇宙天気の社会インフラへの影響と関連する現象の早見表
社会への影響 | 関連現象 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
太陽現象 | 磁気圏現象 | 電離圏現象 | |||||
通 信 | 太陽フレア | プロトン現象 | 地磁気擾乱 | 放射線帯電子 | 電離圏嵐 | デリンジャー現象 | Es層 |
航空機 | 太陽フレア | プロトン現象 | 地磁気擾乱 | 放射線帯電子 | 電離圏嵐 | デリンジャー現象 | Es層 |
被 曝 | 太陽フレア | プロトン現象 | 地磁気擾乱 | 放射線帯電子 | 電離圏嵐 | デリンジャー現象 | Es層 |
衛 星 | 太陽フレア | プロトン現象 | 地磁気擾乱 | 放射線帯電子 | 電離圏嵐 | デリンジャー現象 | Es層 |
オーロラ | 太陽フレア | プロトン現象 | 地磁気擾乱 | 放射線帯電子 | 電離圏嵐 | デリンジャー現象 | Es層 |
測 位 | 太陽フレア | プロトン現象 | 地磁気擾乱 | 放射線帯電子 | 電離圏嵐 | デリンジャー現象 | Es層 |
送 電 | 太陽フレア | プロトン現象 | 地磁気擾乱 | 放射線帯電子 | 電離圏嵐 | デリンジャー現象 | Es層 |
ユーザーガイド | 社会システムとの関わり | 宇宙天気予報 (nict.go.jp)
https://swc.nict.go.jp/knowledge/guide.html
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