オーロラ発生の可能性を予報する オーロラ予報 オーロラフォーキャスト(Aurora Forecast)
2024年6月8日
2024年6月8日
オーロラの発生原理
太陽からは「太陽風」と呼ばれるプラズマの流れが常に地球に吹きつけており、これにより地球の磁気圏は太陽とは反対方向、つまり地球の夜側へと吹き流されています。太陽から放出されたプラズマは地球磁場と相互作用し、複雑な過程を経て磁気圏内に入り、地球磁気圏の夜側に広がる「プラズマシート」と呼ばれる領域を中心として溜まります。このプラズマシート中のプラズマが何らかのきっかけで磁力線にそって加速し、地球大気(電離層)へ高速で降下することがあります。大気中の粒子と衝突すると、大気粒子が一旦励起状態になり、それが元の状態に戻るときに発光します。これがオーロラです。発光の原理だけならば、オーロラは蛍光灯やネオンサインと同様です。プラズマシートが地球の夜側に形成されるため、オーロラは基本的に夜間にのみ出現するものですが、昼間にもわずかながら出現することもあります。このように、オーロラは、太陽活動の影響を受けた地球の地磁気に起因する自然現象なので、単純に、その美しい自然現象というだけでない意味があるという事になります。
オーロラ予報 オーロラフォーキャスト(Aurora Forecast)
アラスカ大学 地球物理学研究所
Aurora Forecast | Geophysical Institute オーロラ予報 地球物理学研究所
https://www.gi.alaska.edu/monitors/aurora-forecast
アラスカ大学 地球物理学研究所のオーロラ予報では、オーロラ発生の可能性を「27 日間の予測」、「3日間の予報」、「1時間予報」の三つのスパンで表示させています。1時間予報
米国海洋大気庁(NOAA)の宇宙天気予報センター(SWPC)のOVATIONオーロラ予報モデルは、30分ごとに更新されます。このアニメーションは、過去24時間に北半球で発生したオーロラ活動を示しています。アニメーションの最後の数秒を早送りすると、今後30分間の予報を見ることができます。
オーロラは日中の明るい時間帯には見えません。そのため、モデルでは地球の日照側を青で、夜側の時間帯をグレースケールで表示しています。
3日間の予報
また、リモートセンシング衛星は、地球に向かって物質を放出する衝動的な噴火の兆候や、高速で流れ続ける物質が地球に向かっている領域を監視しています。いずれの場合も、太陽から放出された物質が地球に到達するまでの時間は1〜3日程度なので、太陽で観測された事象や状況をもとに、このような時間スケールで予測することができます。
27日間の予測
地球が24時間で自転するように、太陽も27日で自転しています。太陽表面では、高速のプラズマが発生し、地球上ではオーロラ活動が活発になる現象が見られます。その現象は、黒点、コロナ質量放出、フィラメント、プロミネンスなどです。太陽は自転しているため、太陽現象や高速プラズマの領域は、現象が消滅するまで27日周期で繰り返される可能性があります。したがって、今日高いオーロラ活動があったとしても、27日後に再び高いオーロラ活動が発生する可能性があります。この27日間の回転をキャリントンローテーションと呼びます。
「赤で囲っている箇所」のボタンで、前日、当日、翌日を、それぞれ選択することができます。3日間予報の表示(オレンジで囲っている箇所)がそれぞれの日付に対応して変化します。
「オレンジで囲っている箇所」3日間の地磁気活動の日次予測を3時間間隔で表示します。現在の時間間隔が青色で強調表示されます。
「青で囲っている箇所」をクリックすると、それぞれの地域を選択することができます(北米 ヨーロッパ 北極 南極 アラスカ)。
「紫で囲っている箇所」1時間予報の表示です。米国海洋大気庁(NOAA)の宇宙天気予報センター(SWPC)のOVATIONオーロラ予報モデルは、30分ごとに更新されます。このアニメーションは、過去24時間に北半球で発生したオーロラ活動を示しています。アニメーションの最後の数秒を早送りすると、今後30分間の予報を見ることができます。クリックすると宇宙天気予報センターへ飛びます。
「水色で囲っている箇所」27日間の予報が表示されます。下のスライダーでさかのぼることができます。
Kp指数5以上が赤、4が黄色、3以下が緑で表されます。オーロラが出る可能性が高い順に赤>黄>緑となります。
予 報: 「オーロラ活動が高い(++)。天候が許せば、ノルウェーのトロムソから南下してスコットランドのアバディーン、ロシアのサンクトペテルブルクまでの上空で、活発なオーロラ現象が見られるでしょう。さらに南下したダブリンやハンブルグでは地平線付近にオーロラが見える可能性があります。」のように具体的にオーロラの出現を予想します。
これらの予測のデータのもとになっているのが、Kp指数(Kp-index)と言われる地磁気の状態を示す数値です。また、このKp指数を求めるのにはK指数(K-index)が用いられます。
K指数・Kインデックス(K-index)
K指数の「K」はドイツ語のKennziffer(特性数値)に由来します。
K指数は、地球磁場の水平成分の攪乱を0から9の整数、10段階で定量化し、1が穏やかで5以上が磁気嵐を示します。3時間間隔で磁力計で観測された地球磁場水平成分の最大変動R(ナノテスラ[nT])を、穏やかな日との相対値から準対数スケールに変換したものです。最大変動からK指数への変換表は、特定のKレベルの発生率の履歴が全観測所でほぼ同じになるように、観測所でほぼ同じになるように調整されています。実際には、地磁気緯度の高い観測所では、同じK指数に対してより大きな変動が必要となります。例えば、K=9に対応するR値は、グリーンランドのゴッドホーブンでは1500nT、ハワイのホノルルでは300nT、ドイツのキールでは500nTです。
リアルタイムのK指数は、3時間ごとの所定の間隔(00:00-03:00、03:00-06:00、...、21:00-24:00)の終了後に決定されます。3時間の期間中の最大の正と負の偏差を足し合わせて、総最大変動を決定します。これらの最大偏差は3時間の期間中のいつでも発生する可能性があります。
K | nT |
---|---|
0 | 0-5 |
1 | 5-10 |
2 | 10-20 |
3 | 20-40 |
4 | 40-70 |
5 | 70-120 |
6 | 120-200 |
7 | 200-330 |
8 | 330-500 |
9 | >500 |
Kp指数 Kpインデックス(Kp-index)K指数 K-indexとは
1949年にドイツの科学者・ユリウス・バーテルス(Julius Bartels)によって考案された指数で、現在はドイツのポツダム地球科学研究センター(GeoForschungsZentrum (GFZ) Potsdam)によって算出され公開されています。
Kp指数はドイツ語の"Kennziffer Planetarische"(惑星指数数値)に由来しており、英語では単に惑星指数と呼ばれます。
地磁気の値から地磁気の活動の活性などを知るために算出するのがK指数やKp指数です。地球上の観測所における地磁気擾乱の振幅を、対数的に区分された28段階で表現するのがK指数です。強度が小さい順に0,0+,1-,1,1+,...,8-,8,8+,9−,9と表現されます。このスケールには上限があり、地磁気変動がどんなに大きくても、Kpは9oを超えることはありません。
Kp指数は準オーロラ帯(オーロラが頻繁に見られる領域の少し赤道側)に位置する、世界中の13か所の地磁気観測所における*標準化された*局所K指数(Ks)を基に算出される指数で、UT3時間の地磁気擾乱の振幅を対数的に、28段階で表現したもので、地磁気の擾乱の程度を表す指数として比較的広く使われるほか、地磁気静穏日(Q-days)・擾乱日(D-days)を決定するのにも用いられます。
Kp指数は準オーロラ帯(オーロラが頻繁に見られる領域の少し赤道側)に位置する、世界中の13か所の地磁気観測所における*標準化された*局所K指数(Ks)を基に算出される指数で、UT3時間の地磁気擾乱の振幅を対数的に、28段階で表現したもので、地磁気の擾乱の程度を表す指数として比較的広く使われるほか、地磁気静穏日(Q-days)・擾乱日(D-days)を決定するのにも用いられます。
Kp指数の範囲は、0から9までの範囲を用いており、「0」は地磁気活動がほぼないということを示し、「9」は最大級レベルで、非常に重大な地磁気嵐を表します。しかし、そのような嵐は本当にまれ(約3年に1回程度)であり、過去のデータからKp1、Kp2、そしてKp3がある程度、頻繁にオーロラの発生するレベルであることがわかっています。Kp 5 以上が地磁気嵐と分類されます。
地磁気指数ap、Ap、Cp、C9、およびQ-days(低い地磁気活動の意味での静穏日)とD-days(高い地磁気活動の意味での撹乱日)の分類は、Kp指数から導出されています。
Kp指数は、次の世界13 か所の地磁気観測所の標準化K指数(Ks)の値または地磁気記録から計算されます。
地磁気観測所 | コード | 運営機関 | 国 | since |
---|---|---|---|---|
エアウェル | EYR | 地質・核科学研究所 | ニュージーランド | 1978 |
キャンベラ | CNB | オーストラリア地球科学機構 | オーストラリア | 1981 |
ウプサラ | UPS | スウェーデン地質調査所 | スウェーデン | 2004 |
ブロルフェルデ | BFE | デンマーク工科大学 | デンマーク | 1984 |
ウィングスト | WNG | ポツダム地球科学研究センター | ドイツ | 1938 |
ニーメック | NGK | ポツダム地球科学研究センター | ドイツ | 1988 |
ラーウィック | LER | 英国地質調査所 | イギリス | 1932 |
エスクデールミュア | ESK | 英国地質調査所 | イギリス | 1932 |
ハートランド | HAD | 英国地質調査所 | イギリス | 1957 |
オタワ | OTT | カナダ天然資源省 | カナダ | 1969 |
ミーヌーク | MEA | カナダ天然資源省 | カナダ | 1932 |
フレデリックスバーグ | FRD | 米国地質調査所 | アメリカ | 1957 |
シトカ | SIT | 米国地質調査所 | アメリカ | 1932 |
Kp指数のグラフ
Kp指数のグラフは、その形が楽譜に似ていることから、考案者であるユリウス・バーテルスの名を冠して、バーテルス・ミュージカルダイヤグラム"Bartels musical diagram"と呼ばれます。
上のダイアグラムでは、2024年1月4日 から 5月15日までの Kp 指数を示しています。地磁気の活動度は太陽活動によって大きく左右するので、太陽の自転周期である 27 日を 1 単位として、 Kp 指数を横に並べて図にしたものです。 Kp 指数は 1 日に 8 個(3 時間ごとに 1 個)ありますので、左端から右端まで 216 個( = 8 個/日 × 27 日)の Kp 指数が並んでいることになります。 Kp 指数の大きさは、縦線の長さ ・ 太さで表現されていて、長ければ長いほど擾乱が激しいことを意味しています。 Kp 指数が 5 を超えると、一定の長さの細線に加えて太線が下から伸びるようになっています。これは、線の濃淡により擾乱度を一目見て理解できるようにするためで、およそ 27 日ごとに起こる地磁気擾乱などに気づきやすいようになっています。楽譜に似ていることから Bartels musical diagram と呼ばれています。詳細に見ていくと、縦線が太くなっているものを見つけることで、地磁気擾乱があったことがよくわかります。 2月3日や 3月24日、4月19日、5月2日、などがそれに当たります。
5月10 ~ 13日には特に激しい長い間、地磁気擾乱があったことが一目瞭然です。この期間は、日本各地でもオーロラが観測され、話題になった時期です。
5月10 ~ 13日には特に激しい長い間、地磁気擾乱があったことが一目瞭然です。この期間は、日本各地でもオーロラが観測され、話題になった時期です。
このように、日々の太陽の活動を、影響を受けた地球の現象で間接的に知ることが出来ます。実際に見てみると太陽が奏でた音楽の楽譜のように見えるので「ミュージカル・ダイアグラム」というのはぴったりの名前です。現在では、これらのデータはコンピュータで処理しやすい数値データなど、様々な形式で公表されていますが、Kp指数を計算して公表しているドイツのポツダム地球科学研究センターのWEBサイトで、数値データとともに現在でも「ミュージカル・ダイアグラム」は公表されています。これは、リアルタイムのデータではなく確定した、データをまとめて公開しています。
「shown in old style musical diagram」として、「Plot of most recent definitive indices」をクリックすれば、誰でも見ることが出来ます。以下にリンクします。
Kp Index: GFZ (gfz-potsdam.de)
https://www.gfz-potsdam.de/en/section/geomagnetism/data-products-services/geomagnetic-kp-index
Kp Index: GFZ (gfz-potsdam.de)
https://www.gfz-potsdam.de/en/section/geomagnetism/data-products-services/geomagnetic-kp-index
Kp指数の地理的影響
Kp指数は、「オーロラ予報」でもわかるように、オーロラが見える可能性がある場所の貴重な推定値として利用されていますが、他の要因(例えば雲量や昼間)も影響するため、科学的に確証はありませんが、おおよそKp指数の予報は、オーロラが現れる可能性がある場所を示す合理的な指標となると思います。
もちろん、これは暗く北の空が遮蔽物なく見渡せる場所にいることが前提条件です。しかし、条件が整っていれば、Kp指数は地理的にこのように解釈できます。
オーロラを日常的に、観察するのならば、北緯66度以上(つまり高緯度)の北欧やアラスカなどに出向くのが一般的なのは、この理由です。最も頻繁なKpレベルはKp0からKp3で、このレベルではオーロラがそれ以外の場所よりも頻繁にこの地域で現れます。
オーロラが更に南で見えるには、はるかに高い地磁気活動が必要で、それほど頻繁には起こりません。
欧州での大まかな目安は次のようになると言われています。
Kp5 = 北スコットランド/南スカンジナビア半島
Kp7 = 北イングランド/北ドイツ
Kp9 = 南イングランド/中央フランス
北米では、オーロラオーバルが磁北極ではなく真北極を中心に存在するため、より低緯度でオーロラが見られます。晴れた夜に都市の外に出て、北の空が遮られずに見渡せる場合、おおよそ次のようになります。
Kp5 = シアトル/トロント
Kp7 = デンバー/ナッシュビル
Kp9 = テキサス州/北メキシコ
このようにKp指数が大きくなればなるほど(太陽が活発であればあるほど)、北半球では南下していくことがわかると思います。
A指数
A指数は、地磁気活動のその日ごとの平均レベルの何らかの指標を導き出す必要があった為、つくられました。K指数と磁力計変動の関係が非線形であるため、一連のK指数の平均を取ることは意味がありません。代わりに、各K指数を線形のスケール「等価3時間範囲」a指数(小文字に注意・等価振幅の値なので、大文字「A」指数と異なります)に変換します。日平均振幅A指数は単に8つの「a」指数の平均です。次の表を用いて、Kからaへの変換を行います。各それぞれのKの値に重みづけをするイメージです。A指数やa指数など、間違いやすい表現なのでa指数をak指数と表すことがあります。
K | a |
---|---|
0 | 0 |
1 | 3 |
2 | 7 |
3 | 15 |
4 | 27 |
5 | 48 |
6 | 80 |
7 | 140 |
8 | 240 |
9 | 400 |
したがって、例えば当日のKインデックスが3 4 6 5 3 2 2 1であれば、
その日のAインデックスは等価振幅の平均値になります。
その日のAインデックスは等価振幅の平均値になります。
A = (15 + 27 + 80 + 48 + 15 + 7 + 7 + 3)/8 = 25.25
NOAA(米国海洋大気庁) GスケールとKpの関係
Kp指数は地球規模の地磁気活動レベルを要約する合理的な方法ですが、宇宙環境の影響を受ける人々がその重要性を理解するのは必ずしも簡単ではありませんでした。NOAA Gスケールはこうした地磁気嵐の影響の重要性に対応するよう設計されています。惑星平均Kp指数の推定値を使用して、以下のように地磁気嵐(NOAA宇宙天気スケール)のレベルを判断しています。
Kp指数 | NOAA宇宙天気スケール 地磁気嵐のレベル |
---|---|
Kp=5 | G1 |
Kp=6 | G2 |
Kp=7 | G3 |
Kp=8 | G4 |
Kp=9 | G5 |
Kpが0から4の場合は嵐下限で、G0とラベル付けされます。
オーロラ・アラートとは
オーロラの出現予報とオーロラ帯の現在の空の映像を見ることができるウェブサイトです。このウェブサイトは、国立研究開発法人 情報通信研究機構 電磁波研究所 宇宙環境研究室が運営しているものです。日本のサイトですので、わかりやすいです。
予測マップは、NOAA の「深宇宙気候観測衛星(DSCOVR)」(DSCOVR:Deep Space Climate Observatory) によって取得されたリアルタイム太陽風観測データを入力とした、リアルタイム磁気圏シミュレーションの計算結果を用いて作成されています。リアルタイム磁気圏シミュレーションは、情報通信研究機構の高速計算システム上で運用されています。(リアルタイムシミュレーションの限界から、地磁気座標の南北緯約60度より低緯度側はデータが得られません。オーロラが非常に活発な時などに、この限界緯度以降が、表示できない為、境界線のように見えることがあります。)
アラートレベルは、リアルタイム太陽風観測データとAurora Electrojet (AE) 指数の速報値を入力とする経験モデルを用いて自動算出されています。レベルは全世界的なオーロラの活動度を示します。AE指数とオーロラの明るさの関係は、過去のアラスカでの分光観測結果に基づき評価しています。
予報カレンダーは、オーロラ活動の周期性(27日周期)に基づく経験モデルで自動算出されています。オーロラ映像は、米国アラスカ州のポーカーフラットリサーチレンジと、南極大陸の昭和基地に設置されている一眼レフカメラで撮影されているそうです。
オーロラ・アラート (nict.go.jp)
https://aurora-alert.nict.go.jp/
オーロラ・アラート (nict.go.jp)
https://aurora-alert.nict.go.jp/
惑星間空間磁場(IMF)
惑星間空間磁場(IMF:Interplanetary Magnetic Fields)は、太陽風によって太陽コロナから引き延ばされ、太陽系を満たす太陽磁場の成分です。このアラートレベルの矢印はその向きを示します。IMFが南を向くと(矢印が下向きになると)とオーロラが明るくなります。
IMFは、一般的に太陽圏磁場 (HMF:heliospheric magnetic field)と呼ばれています。
コロナと太陽風プラズマ
コロナと太陽風のプラズマは高い電気伝導性を持っているため、磁力線とプラズマ流れは実質的に「凍結」されており、磁場はプラズマを通して拡散することはできません。太陽コロナでは磁気圧力がプラズマ圧力を大きく上回るため、プラズマは主に磁場によって構造化され拘束されています。しかし、コロナを通じて高高度になるにつれて、太陽風はローレンツ力の相互作用を通じて磁場からエネルギーを引き出すことで加速し、流れの運動量が拘束する磁場張力を上回り、コロナの磁場が太陽風に引き延ばされて太陽圏磁場 (HMF)を形成します。太陽系(または太陽圏)のほとんどの領域では、風の動圧が磁気圧力を上回るため、磁場は外向きの運動と太陽の自転の組み合わせによってアルキメデスらせん (Archimedean spiral pattern)(パーカーらせんthe Parker spiral)に引き延ばされます。近地球空間では、太陽圏磁場 (HMF)は公称上、地球-太陽ラインに対して約45度の角度をなしますが、この角度は太陽風速度によって変化します。太陽圏磁場 (HMF)の放射方向への角度は、太陽光球フットポイントの速度が低下するため、赤緯が高くなるほど小さくなります。
光球フットポイントの極性に応じて、太陽圏磁場は内向きまたは外向きにらせん状になります。北半球と南半球の磁場は同じらせん形状に従いますが、磁場方向は逆になります。これら2つの磁気領域は、2つの電流シート(曲面に閉じ込められた電流)によって分離されています。この太陽圏電流シートは、ひねった バレリーナのスカートのような形状をしており、太陽の磁場が約11年ごとに反転するにつれて、太陽周期を通じてその形状を変化させます。
地球軌道における磁場
惑星間媒質のプラズマは、太陽の磁場が地球軌道で当初予想された100倍以上の強さになることにも寄与しています。宇宙が真空だとすれば、太陽の双極子磁場(太陽表面で約10-4テスラ)は、距離の3乗に反比例して約10-11テスラに減少するはずです。しかし、人工衛星観測では、10-9テスラ程度の約100倍の強さが示されています。磁気流体力学(MHD)理論では、導電性流体(例えば惑星間媒質)の磁場内の運動が電流を誘導し、さらに磁場を生成すると予測されており、この点でMHDダイナモのように振る舞います。
地球軌道における惑星間磁場は、"宇宙の天気"と呼ばれる太陽風の波動やその他の攪乱によって変化します。この磁場はベクトル量で、放射方向と方位方向、そして黄道面に垂直な成分を持っています。地球近傍での磁場強度は1~37nTの範囲で変化し、平均約6nTです。1997年以降、太陽磁場はLagrange点L1にある太陽-地球ハロー軌道上の先進的組成探索衛星(ACE:Advanced Composition Explorer)によりリアルタイムで監視されてきました。2016年7月以降は、L1にある深宇宙気候観測衛星(DSCOVR)でも監視されており、ACEは補助的な測定を継続しています。
オーロラ(aurora)
太陽風によって引き起こされる地球磁気圏の撹乱の結果で、天体の極域近辺に見られる大気の発光現象です。大規模な撹乱は、コロナホールやコロナ質量放出によって引き起こされる太陽風速度の増加から生じます。これらの撹乱は、磁気圏プラズマ中の荷電粒子の軌道を変化させます。主に電子とプロトンからなるこれらの粒子が上層大気(高熱圏/外気圏)に降り注ぎ、大気成分の電離と励起により、様々な色と複雑さの光を放出します。オーロラの形状は北極、南極域周辺の帯状に現れ、降り注ぐ粒子に与えられる加速度の大きさにも依存します。フィンランド、カナダ、ノルウェー、アイスランドなど地球の極地(緯度60°~70°)の限られた地域で頻繁に発生します。特に、オーロラが見える領域のことをオーロラオーバルと呼んでいます。さらに、オーロラが見える高度は約80km〜600km付近の、『電離圏』と呼ばれる領域に限られます。
地球の上空は、下から対流圏・成層圏・中間圏・電離圏という4つの領域に分類され、大気中の成分はそれぞれの高度で異なります。
オーロラが起きるのは高度80km~600km程の電離圏という領域(国際宇宙ステーション(ISS)がいる高度くらい)で、電離圏(80~600km付近)には、窒素分子(N2)や酸素分子(O2)、酸素原子(O)などが存在しています。
太陽で、フレアや CME(コロナ質量放出)などのエネルギー放出現象が起こると、太陽風に乗ってプラズマが地球まで運ばれることに起因します。
このプラズマが電離圏に存在する窒素分子(N2)・酸素分子(O2)・酸素原子(O)などと衝突して発光(衝突で引き起こされる放電現象)したものがオーロラです。
オーロラは、極光(polar lights)または、観測される極域により、北極寄りなら北極光・ノーザンライト(aurora borealis)(northern lights)、南極寄りなら南極光・サザンライト(aurora australis)(southern lights)とも呼ばれています。
「aurora borealis」という名前は、1619年にガリレオ・ガリレイによってローマ神話の夜明けの女神アウロラと、北風のギリシア語名ボレアスに由来して作られました。「aurora」という言葉は、夜が明けるのを告げ、東から西へ移動する夜明けの女神アウロラの名前に由来しています。古代ギリシアの詩人たちは、「薔薇の指をした夜明け」といった比喩表現を用い、暗い空に色彩が広がるようすを形容しました。「borealis」と「australis」は、ギリシア・ローマ神話の北風の神ボレアスと南風の神アウステルの名前に由来しています。
オーロラの活動と太陽の活動は連動している
オーロラの原因となる太陽の活動としては、太陽フレアの発生、突発的なコロナ質量放出により放出されたコロナが地球磁気圏に衝突すること、高速の太陽風が噴出するコロナホールの生成の3つが挙げられます。
磁気嵐が強いほどオーロラの範囲はより低緯度に拡大し、明るいオーロラが生じやすくなります。そのため短期的には、予測される磁気嵐の活動度の大小によって、オーロラの低緯度地域への拡大の程度が予測できます。地磁気擾乱の活動度を示すKp指数はオーロラの位置や明るさとよく対応することが知られています。そして、低緯度地域での珍しいオーロラ観測例の多くは強い磁気嵐現象によるものです。ただし、地磁気擾乱が中程度や弱いときにも低緯度オーロラは発生しうるという仮説もあります。そのような現象を"スポラディック・オーロラ"(散発性のオーロラ)と表現しています。
人工衛星観測のうち、地球と太陽のラグランジュ点 L1に配置されている衛星は、地球磁場に突入する直前の太陽風を観測し地球磁気嵐の正確な予測の資料が得られますが、原理上数十分後の予測しかできません。一方、X線センサーなどをもつ太陽監視衛星はコロナ質量放出やコロナホールの発生を検出し、磁気嵐の1日程度前に予測することができますが、コロナ質量放出の速度や方向の予測は難しいため予測は不確実性を伴います。
また、コロナホールは数か月の間ほとんど同じ場所で継続するため、直近に磁気嵐やオーロラが発生していれば、太陽の自転周期である約27日後に再来する可能性がありますので、この性質を利用した単純な予測は可能です。またコロナホールは黒点のピークの年から数年経った後、つまり黒点周期の後半に多く生成します。観測統計でも、黒点数がピークを過ぎて減少に転じた後の数年がオーロラの頻度が最も高く活動的になります。
ただし、たとえ黒点の数がゼロになっても、太陽にコロナがある限り太陽風は吹きますので、ある程度のオーロラは出現します。2000年代後半は太陽活動の低下に伴いオーロラの活動低下が報告され、例えばフィンランド気象研究所は、2005年から2010年のオーロラがそれまでの100年間で最少だったと報告しています。
ほとんどのオーロラは「オーロラ帯」と呼ばれる帯状の領域で発生し、通常、緯度で約3°から6°(約330~660km)、地磁気極から10°から20°の範囲にあり、夜空に対して明瞭に見えます。現在オーロラが見られる領域は「オーロラ オーバル」と呼ばれ、太陽風によって地球の夜側にずれた帯状になっています。地磁気との関連性の初期の証拠は、オーロラ観測の統計から得られました。エリアス・ルーミス(1860年)、その後ヘルマン・フリッツ(1881年)、ソーフス・トロムホルト(1881年)がより詳細に、オーロラが主にオーロラ帯で出現することを確立しました。
オーロラの発光過程
太陽風に含まれるプラズマという陽子や電子が、大気中の原子や分子に衝突すると、衝突された原子や分子が「励起」し、電磁波による発光現象が起こります。これは、大気に衝突したプラズマ自体が発光するのではなく、衝突された側の原子や分子が発光しているということです。
大気を構成している酸素原子や窒素原子は中心の「原子核」とその周りの「電子」から構成されています。この電子に太陽風のプラズマが衝突すると、衝突された電子はエネルギーをもらい、本来の軌道より外側を回るようになります。これを「励起状態」と言います。
励起状態は不安定なため、元の位置「基底状態」に自然に戻りますが、この時2つの軌道にあるエネルギーの差分電磁波(光)を放出することになります。これがオーロラの光です。
オーロラ光の色の違いのメカニズム
色とは、光の「波長」の違いであり、波長が短い光ほどエネルギーは強く(紫に近く)、長い光ほどエネルギーは弱い(赤に近い)という特性があります。
原子、分子それぞれの光のスペクトルを見ると、紫や青は窒素分子イオン(N2+)、ピンク色は窒素分子(N2)、明るい緑や赤の光は酸素原子(O)からの光であることが分かります。オーロラの3つの色はこれらの原子の光を見ているということです。
オーロラの場所(高度)で色が違うのは、 高度によって大気中の原子・分子の種類の違いがあるため、衝突物質によって発光する色が異なるということです。
励起状態と基底状態とのエネルギー差(ぶつかるプラズマ粒子のスピード、つまり原子と衝突した時に受けるエネルギーの大きさに)によっても変化します。したがって、エネルギーの差が大きければ「ピンクや紫色」、小さければ「赤色」、その中間で「緑色」を発光させることになります。
励起状態と基底状態とのエネルギー差(ぶつかるプラズマ粒子のスピード、つまり原子と衝突した時に受けるエネルギーの大きさに)によっても変化します。したがって、エネルギーの差が大きければ「ピンクや紫色」、小さければ「赤色」、その中間で「緑色」を発光させることになります。
赤色: 最も高い高度(高度約150km以上)では、大気が薄く、大気中の酸素原子の割合が大きいため、励起された酸素原子が630.0nm(赤色)で発光します。この波長に対する目の感度が低いため、この色は太陽活動がより活発な時にのみ可視化されます。 酸素原子の数が少なく、濃度が徐々に減少することが、「カーテン」の上部が淡く見える理由です。
緑色: 中間の高度(高度約100~200km)では、より頻繁な衝突により630.0nm(赤色)は抑制され、代わりに557.7nm(緑色)の発光が支配的になります。酸素原子の比較的高い濃度と、緑色に対する目の高い感度により、緑色のオーロラが最も一般的です。ここでは、励起された分子状窒素(N2分子の高い安定性のため、原子状窒素は希少)も役割を果たしており、衝突によってエネルギーを酸素原子に移し、酸素原子がそのエネルギーを緑色の波長で放射します。(赤と緑が混ざると、ピンクや黄色の色調になります)高度約100km以下での酸素原子濃度の急激な減少が、「カーテン」の下端の鋭い終端を引き起こしています。557.7nm(緑色)と630.0nm(赤色)の両波長は、それぞれ原子状酸素の禁制遷移に対応しており、ゆっくりとした機構(0.7秒と107秒)が徐々に明滅する理由になっています。
青色: さらに低い高度(高度約90~120km)では、大気中の分子の密度が高く、酸素は発光することができません。その代わり、分子状窒素とイオン化された分子状窒素が、スペクトルの赤色部と青色部の両方の多くの波長で可視光を放射するようになり、428nm(青色)が支配的になります。青色や赤色に発光することによって、紫色やピンク色の光で通常「カーテン」の下端にあらわれ、太陽活動レベルが最も高い時に現れます。
ー記事をシェアするー